~マナの枯れた地~

「デュー殿が留守番側だなんて、珍しいでござるな」

 結界に守られたブラックカーラント号にて。
 アラムンドの、どこまでいっても靄でぼやけた景色をじっと眺めていたデューは、背後からかかった声に振り返る。

「たまにはこういうのも悪くねーだろ。それに、今回オレはこっちにいた方が良いような気がしてな」
「ふむ、確かに……あちらは属性の適性重視でござった」
「そ。けどまぁ、その余りだからってだけでもねーんだぜ。こっちのチームもな」

 船内に残ったメンバーを見渡しながら、デューは話を続ける。

「お前もイシェルナも素早く動けるし、索敵能力に長けてる。状況を広く見られるオグマと教官は迷ったけど、暗い洞窟には光に弱い魔物も多そうだから今回はオグマがこっち」
「なんだ、随分買ってくれてたんだな」

 いつから聞いていたのか、オグマもひょっこりと顔を覗かせた。
 そこに出会った当初のようなぎこちなさはなく、もうすっかり仲間として心を開いているようだった。

「オレは最初からオグマの力は買ってるよ。オレやミレニア、他の連中にない部分を補ってくれてるし、合わせる技量がある」
「少し気恥ずかしいが、その……ありがとう」

 いつの間にか「すまない」よりも「ありがとう」を多く口にするようになっていたことを、オグマ本人は気付いているだろうか。
 下手に指摘すると照れて元に戻っちまうかもな、などと思いながらほくそ笑んでいると「悪い笑みでござるな」という声が横から聞こえた。

『お前らはいいチームだな。一人一人の力もあるが、役割がはっきりしていて必要な時にしっかり機能している』

 宝剣の霊晶石を使い、船に結界を張り続けている万物の王が声を発する。
 柱を背にもたれかかっていたトランシュも、それに頷いた。

「お褒めに預かりどーも、精霊王サマ。偶然が重なって集まったメンバーだから、オレもびっくりしてるんだけどな」
「その偶然は必然だったんだと思うよ。僕とフローレットが巡り逢ったみたいに。あれはそう、婚約の話を聞かされてから初めて彼女に会った時……」
「どうだカッセ、魔物はいるか?」

 長くなりそうな友人のノロケをスルーして、デューはカッセに尋ねた。
 すると、ぴくっと頭巾の下の耳が動き、彼の纏う空気が変わる。

「……雑談タイムは終わりか?」
「ああ。やはり放っておいてはくれぬようだ」

 人より感覚が鋭い獣の耳は、しっかりと魔物の接近を捉えていた。

「のんびりお留守番にはならなかったみたいね。退屈しのぎになればいいけど」
「よし、船を降りて迎撃する! いくぞみんな!」
「トランシュはこのままブラックカーラント号に残って、万が一突破された時のためキャティ達を守ってくれ」
「わかりました、オグマさん! みんなも気をつけて!」

 それぞれが武器を手に散っていくさまを眺めながら、精霊王は『頼もしい限りだな』と唸るのだった。
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