~希望を灯して~
マーブラム城の玉座の間は一時が信じられないほど静まり返っていた。
日頃の姿に戻っただけのことなのだが、アラムンド行きに取り残されたモラセスには先刻までの賑やかさが早くも恋しく思えた。
「……行ってしまいましたね、父上も皆さんも」
隣に控えていた金髪の青年騎士、フレスがぽつりと呟きを溢す。
それを拾ったのは、仮面の黒騎士。
「お前も行きたかったのか、フレス」
「とんでもない。私が行ったところで足手まといだよ。それよりも……」
“お前”って、ちょっとひどくないか?
年下だと思っていたグラッセの自分への態度に少々引っ掛かりながらも彼のそれはいつものことなので諦めつつ今は飲み込み、フレスは視線をザッハに移した。
「そう、僕達は“僕達のできること”をやらなきゃね」
「ザッハ様、その手にしているのは……」
「あいつらにも渡したものだな。何だ?」
モラセスも続けて質問をすると、ザッハは掌におさまるサイズの奇妙な機器を軽く掲げて見せ、
「ほんのお守りですよ、父上。僕が作った、魔学通信機の試作品です」
「魔学通信機?」
「原理など詳しい説明は省きますが、ようするに遠くにいる相手と話ができる道具です。今はまだ、対の通信機を持っている者としか繋がりませんが……試作品だけでも間に合って良かった」
そう説明する彼の目の下には、いつにもまして睡眠不足の証が深く刻まれていて、急いで用意したのであろうことが見てとれる。
今はまだ、という言い様から、この道具は今後さらに発展していくのだろう。
大した発明だな、とマンジュの長の代役であるウイロウは密かに唸った。
「お前が持っているのが、あいつらに渡したものの対になるのか」
「ええ。それともう一対、彼等には渡してあります」
別行動をする場合に必要でしょう、とここまで言ってザッハは通信機を懐にしまった。
「……それがあればあいつらと話せるのか」
「あげませんよ。ああでも、アラムンドでも使えるかどうかは試してないな……そもそもアラカルティアとアラムンドを隔てる壁ってどういうものなんだろう? もっと詳しく調べて精度を……」
しばらく物欲しそうな目を向けていたモラセスだったが、ザッハの独り言が止まる気配を見せなくなってから「少しは寝ろ」とだけ言ってそっとそらす。
「はぁ……」
「どうかしたのか、グラッセ?」
「これが始まると長いんだったな、ザッハは……オグマの奴も、よくこんなのに付き合っていたものだ」
オグマの記憶からそのことを知っていたグラッセは、不思議そうな顔をするフレスをよそに、やれやれと溜め息をついた。
日頃の姿に戻っただけのことなのだが、アラムンド行きに取り残されたモラセスには先刻までの賑やかさが早くも恋しく思えた。
「……行ってしまいましたね、父上も皆さんも」
隣に控えていた金髪の青年騎士、フレスがぽつりと呟きを溢す。
それを拾ったのは、仮面の黒騎士。
「お前も行きたかったのか、フレス」
「とんでもない。私が行ったところで足手まといだよ。それよりも……」
“お前”って、ちょっとひどくないか?
年下だと思っていたグラッセの自分への態度に少々引っ掛かりながらも彼のそれはいつものことなので諦めつつ今は飲み込み、フレスは視線をザッハに移した。
「そう、僕達は“僕達のできること”をやらなきゃね」
「ザッハ様、その手にしているのは……」
「あいつらにも渡したものだな。何だ?」
モラセスも続けて質問をすると、ザッハは掌におさまるサイズの奇妙な機器を軽く掲げて見せ、
「ほんのお守りですよ、父上。僕が作った、魔学通信機の試作品です」
「魔学通信機?」
「原理など詳しい説明は省きますが、ようするに遠くにいる相手と話ができる道具です。今はまだ、対の通信機を持っている者としか繋がりませんが……試作品だけでも間に合って良かった」
そう説明する彼の目の下には、いつにもまして睡眠不足の証が深く刻まれていて、急いで用意したのであろうことが見てとれる。
今はまだ、という言い様から、この道具は今後さらに発展していくのだろう。
大した発明だな、とマンジュの長の代役であるウイロウは密かに唸った。
「お前が持っているのが、あいつらに渡したものの対になるのか」
「ええ。それともう一対、彼等には渡してあります」
別行動をする場合に必要でしょう、とここまで言ってザッハは通信機を懐にしまった。
「……それがあればあいつらと話せるのか」
「あげませんよ。ああでも、アラムンドでも使えるかどうかは試してないな……そもそもアラカルティアとアラムンドを隔てる壁ってどういうものなんだろう? もっと詳しく調べて精度を……」
しばらく物欲しそうな目を向けていたモラセスだったが、ザッハの独り言が止まる気配を見せなくなってから「少しは寝ろ」とだけ言ってそっとそらす。
「はぁ……」
「どうかしたのか、グラッセ?」
「これが始まると長いんだったな、ザッハは……オグマの奴も、よくこんなのに付き合っていたものだ」
オグマの記憶からそのことを知っていたグラッセは、不思議そうな顔をするフレスをよそに、やれやれと溜め息をついた。
