~めざめ~

 空飛ぶ船、などというおとぎ話にしか出てこないような乗り物に乗って、デュー達は王都近くの平地に降り立った。

 陸にそびえる、巨大亀が背負ったブラックカーラント号なんてなかなか現実離れた光景だが、各地に密かに存在する九頭竜の路への入り口を隠す結界同様、どういう訳かその姿は他の者達からは見えないようになっているらしい。

 とはいえ、何もないように見えているのなら、大人数な上に王様まで加えたデュー達が突然そんな所からぞろぞろ現れることになるのだろうから、どのみち目撃者はいない方がよさそうだ。

『待ちくたびれたぞ、おまえら』

 マーブラム城・玉座の間に戻ると、実体化した精霊王が玉座でふんぞり返っていた。
 そしてデュー達の姿を確認するなり、留守を任されていたフレスが彼の横で安堵の表情を見せる。

「フレス……その様子だと、精霊王の退屈しのぎに付き合わされたか」
『光栄に思えよ、騎士。この俺の相手に選ばれたのだからな』

 尊大でありがた迷惑な言葉にはフレスも、はあ、と返すしかなかった。

『で、首尾はどうだ? 城の地下に向かった一組は同行したから知っているが』
「そうそう、こっちはミレニア達が通常の聖依術と違って大精霊を宿すファイナルアルティメット聖依術ができた、ってとこだね」
『超絶合身覇王聖依術だろう?』

 まだその話続いとったんか、とミレニアが呆れ笑いを兄と精霊王に向けた。

「うわ、濃そうなおっさん……あれも精霊なの?」
「ああ見えて精霊王とか万物の王とか呼ばれるすごい大精霊じゃよ」
『うむうむ、もっと誉め称えろ』

 恐らくミレニアの“すごい”という一点のみを全力で受け取っているのであろう万物の王は、キャティの不躾かつストレートな言葉にも腹を立てることなく満足げに頷いている。
 この前向きさと自信が他の、そういう部分が欠けた者達に少しずつ分け与えられれば全てがちょうどよくなるのだろうか、とデューは辺りの該当する者達を見渡すが、それはそれで嫌だなと思いとどまった。

『それで、宝剣と船は……まあ、船の方は聞くまでもないがな』
「大精霊達の力で姿かたちは見えないらしいのに、わかるのかい?」

 トランシュが尋ねると『当たり前だ』と返された。

『普通の人間ならそうだろうが、この俺を誰だと思っている。これでようやくアラムンド突入……の前に、我が力を使うため、契約をせねばな。おい、そこの緑の荷物持ち』
「もしかしなくても俺ですか!?」

 布にくるまれた宝剣を抱えた、髪も服も緑の男……リュナンは、誰がどう見ても精霊王が呼び掛ける者の条件と一致していた。

『こっちに剣を持ってこい。それから、トランシュはその剣を持て』
「あ、スルーですかそうですか……」

 だんだん自分の扱いが雑になっているのを感じずにはいられない緑の荷物持ちは、半泣きでがっくりと肩を落とした。
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