~広がる不安~
王都を遠く離れ、東大陸ジャンドゥーヤの南端……以前パスティヤージュに向かった時とも、そこから砂漠やカレンズ村を抜けた先にある所とも別の港にて。
巨亀ヨーグルが背負う船“ブラックカーラント号”とその乗組員である兄妹の行方を追って、デュー、フィノ、カッセの三人はマンジュの民の情報からここに来ていた。
「またこの三人で行動するとは思いもよらなかったでござるな」
「他のチームはあまりメンバー被っていませんしね」
彼等は以前にもそれぞれ別行動をとった時に同じチームだった上に、今回も行き先は東大陸……まあこちらは偶然行き先がそうなっただけなのだが。
「こういう探し物をするのに神子姫であるフィノ、マンジュの民と連絡を取り合ってるカッセは適任だって思ったからな。一応居場所は聞いてても、そこから動く可能性もあるだろ」
だから少なくとも二人はここに入れるつもりだった、とデューが述べる。
「じゃあデュー君は?」
「オレはお前らの保護者」
「……説得力がないでござる」
見た目だけなら誰よりもお子様な少年騎士にそんなことを言われたところで、納得などいくはずもなく。
とはいえ正体を知っていて尚二人が不満そうな顔をするのは、年長者云々という問題ではないようだ。
「なんだよ、オレじゃ頼りないって?」
「そういう訳じゃないんですけどね」
「うむ」
実際、デューが頼りになることはフィノもカッセもこれまでの旅路で充分知っている。
知ってはいるのだが……
「お、やっぱこっちは中央とはまた違ったいい女がいるなあ」
中身は大人な上に、記憶が戻って以来欲望に正直になった気がするこの男、ちょっと好みの女性を見かけるとすぐ目で追ってしまう。
「探しているのは船と亀さんでしょ!」
「まったくこれだからデュー殿は……」
いい女じゃなくて悪かったわね、と頬を膨らませるフィノと、最低でござると一瞥するカッセは、
「冗談だって。いやほら現地の人に聞き込みをだなぁ……待てよ、待てって!」
「知りません!」
「でござる!」
保護者を自称していた男を置き去りにする勢いで、すたすたと行ってしまうのだった。
……と、そこに。
「おい、見ろよ二人とも」
居並ぶ定期船とは違い一際目立つ、見覚えのある船体を見つけてデューが声をあげる。
それはまさしく探していたブラックカーラント号そのものだったが、何かが足りないように感じた。
「これは件のブラックカーラント号……だが、何やら様子がおかしい」
「船を動かしてるあの亀がいねえぞ?」
あれだけの存在感を放つものが不在という異様な雰囲気に我知らず息を呑みながら近付いてみると、船の乗組員達と兄妹の片割れ……妹のキャティの姿が。
作業用のツナギに包まれた小麦色の肌に活発さをあらわしたような金の大きなサイドテールも今は力なくうなだれて、伏せられた目には普段は見られない憂いをのぞかせて。
「なにがあったんだ、キャティ?」
「デュー……!」
かけられた声に顔を上げた途端見知った人間の存在が飛び込んできて、ぷっつりと糸が切れてしまったのだろうか、少女の頬を大粒の涙が伝ってこぼれ落ちた。
巨亀ヨーグルが背負う船“ブラックカーラント号”とその乗組員である兄妹の行方を追って、デュー、フィノ、カッセの三人はマンジュの民の情報からここに来ていた。
「またこの三人で行動するとは思いもよらなかったでござるな」
「他のチームはあまりメンバー被っていませんしね」
彼等は以前にもそれぞれ別行動をとった時に同じチームだった上に、今回も行き先は東大陸……まあこちらは偶然行き先がそうなっただけなのだが。
「こういう探し物をするのに神子姫であるフィノ、マンジュの民と連絡を取り合ってるカッセは適任だって思ったからな。一応居場所は聞いてても、そこから動く可能性もあるだろ」
だから少なくとも二人はここに入れるつもりだった、とデューが述べる。
「じゃあデュー君は?」
「オレはお前らの保護者」
「……説得力がないでござる」
見た目だけなら誰よりもお子様な少年騎士にそんなことを言われたところで、納得などいくはずもなく。
とはいえ正体を知っていて尚二人が不満そうな顔をするのは、年長者云々という問題ではないようだ。
「なんだよ、オレじゃ頼りないって?」
「そういう訳じゃないんですけどね」
「うむ」
実際、デューが頼りになることはフィノもカッセもこれまでの旅路で充分知っている。
知ってはいるのだが……
「お、やっぱこっちは中央とはまた違ったいい女がいるなあ」
中身は大人な上に、記憶が戻って以来欲望に正直になった気がするこの男、ちょっと好みの女性を見かけるとすぐ目で追ってしまう。
「探しているのは船と亀さんでしょ!」
「まったくこれだからデュー殿は……」
いい女じゃなくて悪かったわね、と頬を膨らませるフィノと、最低でござると一瞥するカッセは、
「冗談だって。いやほら現地の人に聞き込みをだなぁ……待てよ、待てって!」
「知りません!」
「でござる!」
保護者を自称していた男を置き去りにする勢いで、すたすたと行ってしまうのだった。
……と、そこに。
「おい、見ろよ二人とも」
居並ぶ定期船とは違い一際目立つ、見覚えのある船体を見つけてデューが声をあげる。
それはまさしく探していたブラックカーラント号そのものだったが、何かが足りないように感じた。
「これは件のブラックカーラント号……だが、何やら様子がおかしい」
「船を動かしてるあの亀がいねえぞ?」
あれだけの存在感を放つものが不在という異様な雰囲気に我知らず息を呑みながら近付いてみると、船の乗組員達と兄妹の片割れ……妹のキャティの姿が。
作業用のツナギに包まれた小麦色の肌に活発さをあらわしたような金の大きなサイドテールも今は力なくうなだれて、伏せられた目には普段は見られない憂いをのぞかせて。
「なにがあったんだ、キャティ?」
「デュー……!」
かけられた声に顔を上げた途端見知った人間の存在が飛び込んできて、ぷっつりと糸が切れてしまったのだろうか、少女の頬を大粒の涙が伝ってこぼれ落ちた。