~芽吹き~

 マーブラム城を発つ直前。

 デューに一人呼び出されたオグマは、わざわざ改まってなんの話だろうと首を傾げた。

「悪いな、オグマ」
「それはいいんだが……何かあったのか?」

 そう尋ねるとデューは、彼にしては珍しく歯切れの悪い口ごもりを見せる。

「あー……今回メンバーを分けるだろ? それで、そっちのリーダーはオグマになるだろうから、一応ちょっと話をな」
「私が? だがこちらにはスタード殿も……」

 年長者で騎士団長の経験もあるスタードが、自分よりもリーダーに向いているのではないか。
 言外に含めるオグマから視線を外したデューは、指先で軽く頬を掻き、

「教官でもいいかと思ったんだけど、仲間になってからの期間の長さを考えたらオグマが適任かなって」

 理由はそれだけじゃないんだけど、と小声で付け足して。

 水浅葱の目をぱちくりさせるオグマの耳に、ドアを叩く音が届いた。


―――――

「旦那、旦那ってば!」
「……」
「オグマさん!」

 過去に置いていたオグマの意識を、リュナンの声が引き戻した。
 現在はデュー達とわかれ、王家の宝剣を持ってフォンダンシティのガトーのもとへ向かっている最中だ。

「あ、ああ、すまない……どうかしたのか?」
「この状況放っておいて考え事とか、俺置き去りにしないでくださいよ……」

 この状況、と剣を抱えているため視線で示した先には、並んで先をゆくスタードとモラセス王。
 目に見えるものではないが、二人の間には火花が激しく散っている……ように思えた。

「どうして貴方がここにいるのでしょうか、モラセス王?」
「まるでいちゃいけないみたいな言い種だな」
「いけないに決まっているでしょう。そんな軽々しく城をあけて……何かあったらどうするおつもりで?」
「お前が育てたうちの騎士団がこの程度の留守も守れんはずがなかろう」
「ああ言えばこう言う……」
「なんだと?」

 先程からこのようなやりとりを繰り広げる主従の背中を延々見せられている。
 世界中に張り巡らされたマンジュの抜け道“九頭竜の路”から出たらもう目前だというのに、フォンダンシティへの道程がこんなに遠く感じたのは初めてだ、とリュナンがげっそりした顔をする。
 転移陣で大幅に移動時間を短縮できたはずなのに、そのはずなのに。

『す、スタード様……けっケンカは……』
「ふふ、違うぞ風花。あれはケンカじゃないんだ」
『はぇ?』

 契約者の険悪な雰囲気におろおろする風精霊に、オグマは安心させるように微笑みかけた。
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