~僕に出来ること~

 一行、特にミレニアとシュクルにとっては王都の障気騒ぎから始まってやたらと縁がある、マーブラム城地下の大空洞。

「むー、なにかというとここばっか……たまにはわしも別のルートに行きたいもんじゃのー」
「君達にはマナスポットを浄化できる力があるから仕方ないよ。それに、これは遊びじゃないからね」

 歩きながら不満そうに口を尖らせる妹に優しく言い聞かせるトランシュと、その後ろに続くイシェルナ、ザッハ、そして精霊王。
 それらを見上げたシュクルは、風変わりなメンバーだな、と内心で呟いた。

「ねぇ、そもそも聖依術ってなんなの? 人間と聖依獣が力をあわせないと使えないのよね?」

 紫黒の磨き抜かれた上等な石を思わせるような瞳が小さな聖依獣を映す。
 大型のうさぎくらいの体に精霊が集まり姿を変えるさまは、魔術の類を扱わないイシェルナにとっては、余計に不可解な光景に思えるのだろう。

「それは僕も気になるな。人間と聖依獣が当たり前のように交流していた時代ではそんな術も普通だったのかい?」

 ザッハの問いかけに、いや、と金髪を揺らして首を左右に振る精霊王。

『術者である人間と精霊を宿す器となる聖依獣、双方が揃うことが前提である聖依術はそもそも扱える者が希少でな、ランシッドの時代でもあまり見られるものではなかった。大精霊のように浄化の力があるなど、当時は知られてはいなかったしな』
「確かに、一人ではできない術なんて聞くと使いにくそうね」
『“総てに餓えし者”の眷属はあの戦いで一度姿を消し、浄化が必要とされなくなった。加えて聖依獣達はその殆どがアラカルティアを見守るため隠れ里に移ってしまい、大多数の人間からは聖依獣も聖依術も忘れ去られることになった。普通の魔物相手なら魔術で充分だからな』

 中には聖依獣を忌み嫌うカレンズ村のような例外もあるが、アロゼやソルヴェンがいたり、かつてはカミベルもアラカルティアに現れていたのだから、どこかしらで接触があったのかもしれない、などと片隅で考えるミレニア。

 しかし現在では眷属も再び現れ、各地で猛威をふるっている。
 聖依術や大精霊の加護があるミレニア達はそれらを浄化し打ち倒すことができるが、この世界の大半の者にはその手段さえないのが現状なのだ。

「今になってそれが必要になるなんて、因果なものだね。大精霊との契約なしで行使できるってことを考えれば、浄化の手段としては人を選ばず使いやすいんだろう?」
『俺様達だって誰とでもホイホイ契約って訳にはいかないからな』

 火の粉を舞い散らしながら具現化した火精霊はその鍛え上げられた体躯にも炎を纏わせ、薄暗かった周囲を照らした。

(大精霊に聖依術、か……)

 豪腕の焔の実体化している体を包む火にザッハがおそるおそる触ってみると、その見た目の激しさに反して火傷のひとつもせず、ただ存在するようなしないような奇妙な感触と、心なしかあたたかい気がするだけで。

「一度じっくり研究してみたいなぁ……」
『研究なんぞで俺様を知った気になれると思うなよ、モヤシ野郎!』

 言い種こそ粗野でぶっきらぼうなものの、にやりと不敵な笑みは友好的にも見える……ように思える。

 この場にいない氷精霊なら『暑苦しい』の一言で片付けそうだ、とミレニア達は彼女の冷めたまなざしを思い出した。
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