~明日のために~

 過去の世界に起きたことを見せられて、それでも折れない、今を生きる者達の心。
 万物の王はデュー達を認め、力を貸すことを約束してくれたのだが……

『ひとつ困ったことがある』
「なんでしょうか、精霊王様?」

 腕組みをして唸る精霊王を、月白の髪の美形が見上げる。
 かつての友の遠い子孫であるトランシュの問いかけに、うむ、と声が返ってきた。

『一応目覚めて姿を現すことはできたのだが、今の俺はまだ力が完全に戻っていないのだ』
「寝起きは確かにぼーっとするもんじゃがのう」

 ミレニアが頷くと、お前はぼーっとし過ぎだとデューが横目で呆れ顔をした。
 と、彼の横に控えていた水精霊が、主人にそうするようにしずしずと進み出る。

『それでは、力が戻るにはどのようにすれば良いのですか?』
『精霊の力を集めるには、それなりのものが必要だ。契約者がいれば、それも捗るんだが……』

 ちらと動いた視線の先には、モラセス王とトランシュがいた。
 どちらも精霊王が実体化で姿を現す前に、いち早くその存在を認識した者達だ。

『我が“無”の……なにものにも属さない、調和の力を扱える資質を持っているのは、そこの二人だな』
「資質……一度は魔物の誘惑に負けたのにか?」

 モラセスもトランシュも、取り憑かれ魔物化して暴走したことがある。
 そんな人間が精霊王と契約する資格があるのか、と尋ねると、強く頷きが返された。

『一度負けて溺れて……それを自力で打ち破るのは、さらに難しいことだと思うぞ』
「弱さを知るからこその強さ、ってことかしらね」
「そういう事なら僕にはないな。大精霊との契約、興味なくはなかったんだけど」

 同じく魔物化したザッハだったが彼の場合は闇が深く同調し、抜け出すことはできなかった。
 そこが父と甥にはあって自分にはないものなのだろうと、レンズ越しの瞳が寂しげに揺れるが、

『そもそも大精霊との契約が可能なレベルに達する人間はそう多くはないんだが』
「お前はこれから強くなればいい。ゆっくりでもな」

 人と精霊、双方の王からほぼ同時にフォローが入り、ザッハの破顔を誘った。
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