~想い、繋いで~

――俺の嫁さんになってくれるんじゃなかったのか。

 俺にはお前が必要だ、って言ったじゃないか。

 帰ったら式を挙げられるよう、ドレスだってずっと前から……

『悲しまないでください、ランシッド様』

 自分の未来を犠牲にして、どうしてお前は微笑んでいられるんだ。

『私は、嬉しかった。私のような女に、そう言って下さるなんて、夢のようで……だから、』

 ……だから?

『貴方や、貴方が守ろうとした世界を、私も守りたかったのです。この世界……パルフェリアを、お願いします』

 嫌だ。

 俺が守ろうとしたのはお前がいる世界なのに、どうして、お前は……――


「ダクワーズっ!」

 叫びながら伸ばした手の先には、薄暗い部屋の天井があった。

『……またか、ランシッド』
「精霊王……そうか、夢……」

 やれやれと万物の王が眉をひそめた。
 “総てに餓えし者”を封じてから数日後、世界を救った英雄として帰還した騎士団。
 しかし団長を失った彼らの顔は誰一人喜びに緩んでおらず、多大な犠牲を払った戦いに心を痛め、疲弊していた。

 あれから数日が経過したというのに、ランシッドの夢には毎晩のように彼女の……災厄を封じるために己が身を投じ、ついにはグランマニエに戻らなかった騎士団長、ダクワーズが現れていた。

 彼女の咄嗟の判断がなければアラムンドも、やがてはグランマニエも含めた全世界が“総てに餓えし者”に喰われてしまっていたかもしれない。

(……あの時、他の手段を考えている猶予はなかった。時間が経てば経つほどこちらに不利になっていく状況で、ロゼットも、他の騎士達も、そもそも既にアラムンドの民の多くが犠牲になっていたあの状況で、これ以上の犠牲を出さないために……ダクワーズは本当によくやってくれた)

 頭では、王としての自分は、わかってはいる。

 けれどもランシッド個人としては絶対に割り切ることのできない犠牲だった。

「なあ精霊王……俺は、王として、ちゃんとやれたのかな……」
『パルフェリアをあの圧倒的な魔物から守り抜いたのだ……人間にしては、よくやったと思うぞ。パルフェリアに生きるものも、精霊達も、俺だってお前達に救われた』
「…………そうか」

 精霊王直々に告げられた賛辞は、たぶん最大級かそれに近いものなのだろう。

 ぐっしょりと汗に濡れ前髪が貼りついた額に手を置いた人間の王は、それでも心晴れることなくうなだれるのであった。
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