~犠牲~(スキットなし)

 隕石が落ちて抉れた大地、歪な異形の巣の中心で……

 “災厄”はそこにいた。

 その場にいた誰もが直感でそれと察した魔物は、他と違い、影法師が実体を得たかのような姿をしていた。

「こいつが……“総てに餓えし者”」

 ダクワーズが息を呑む。
 しかしその一瞬でぶわっと魔物の足元から影がひろがり……

「うわぁっ!」
「ぎゃあああああ!」

 そこから伸びた黒い触手が、反応が遅れた騎士達の鎧を呆気なく貫き、いくつかの命を奪っていった。

(一瞬、だと……)

 魔物の強襲に対応出来ないような者を連れてきた覚えはない。
 それでも現実は……“総てに餓えし者”は圧倒的で、仕留めた騎士の数人を見せつけるように触手で吊り上げた。

『うそ、だろ……』
「あ、ああ……」

 この中で戦闘経験などなしに等しいであろうロゼットが、恐怖に後ずさる。
 さっきまで当たり前のように生きて、笑っていた者が、今は血の気の失せた顔でぐったりと手足を投げ出しているなど、彼女にはどれだけ衝撃的なものであろうか。

 と、その中で朦朧としながらも、辛うじて息のある者を見付け、彼を助けようとダクワーズは剣の柄に手をかけた。

「ダクワーズ様、こ、来ないで、ください……」
「馬鹿者、諦めるなマカロ!」

 襲いくる影を切り裂きながら弱っていく部下の名を呼び叱りつけ、手をのばすが……

「ダクワーズ、さま……ひっ」

 ぐん、と彼の体が一気に影法師に引き寄せられ、そのまま取り込まれてしまう。
 愕然とする一同の前で騎士を飲み込んだ“総てに餓えし者”は、一回り大きくなり、そして口を開く。

《からから、ぽっかり……そうか、これは“餓え”というのか》

 腹とおぼしきあたりを擦りながら、噛み締めるように魔物は言葉を発した。

《だんだん浸透してきたな……この世界の知識が》
「取り込んだ人間から、知識を得ているのか……!?」

 目の前で起きたありえない光景に誰もが青ざめ、絶句するが、

『~っ、ダクワーズ!』
「!」

 主君の一声で意識を引き戻された騎士団長は、すぐさま辺りを見回し、部下達を確認すると大きく息を吸い込んだ。

「皆、ロゼットを守れッ!」

 びく、と騎士達の肩が跳ねる。
 一度は伏せられた黄金の隻眼は、今は闘志の炎を宿していた。

「これまでの道程を、犠牲を、無駄にするな! 奴を封印するぞ!」

 ここで終わってなるものか。

 世界のため、主君のため、未来のため。

 ダクワーズは剣を持つ手にもう片方の手を添え、両足にぐっと力をこめた。
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