~災厄~

――デュー達が生きるより遥か昔の世界、パルフェリア。

 当時まだその中の一部分として存在していたアラムンドでは魔物の脅威にさらされながら、いまだ諦めず知恵を振り絞る者達がいた。

「しかし、この兵器を使うことになるとはな」

「魔術では埒が明きませんからね」

「しかしこれが成功すれば我がアラムンドの力が世界に……!」

 魔物が発生した地点に近い町や村に生きた人間はおらず、恐怖に怯える生き残りを抱えた帝都内の研究施設にて。

 既にだいぶ食い荒らされてぼろぼろになった地で力を示して何になるのか。
 異常な状況下、血走った眼で何かの装置に向かい続ける白衣達にはそれが頭から抜けていた。

 ただ魔物を倒すことだけ。

 ただ自分達の技術力を見せつけることだけ。

 彼等の視野は狭窄し、歪みきっていた……――



 その頃、グランマニエの城内では。

「ううーん……」
「どうしたのですか、ランシッド様」

 アラムンドへの出立を控え慌ただしくなった騎士達を視界の端々にとらえながら、王は椅子の背もたれに身を預け大きくのけぞった。

「やっぱり心配だなぁ。アラムンドには障気っていう、人間や生き物に毒になるものが漂ってるそうじゃないか」
「はい。偵察に向かわせた隊の数人がやられました。今のところまだ濃度が低いようで、障気のないところですぐに解毒の術をかければ回復するのですが」
「でもそれじゃあ進軍もままならない。そのくせ障気の濃度は時間と共に上がり、辺りへ広がっていく。そうなれば、アラムンドの民はもちろん我々も無事では済まないだろう」

 すぐにでも魔物を退治したいランシッド達の悩みの種はそこだった。
 濃度の薄い障気ならばやがて精霊に分解されて消えるため大元を絶てば影響は少ないが、アラムンドに発生したそれは当初に比べ少しずつだが濃くなっている。
 のんびりできる状況でもないのに、行く手を阻む壁が二の足を踏ませるのだ。

「障気を防ぐ手立てがあれば、アラムンドに足を踏み入れられるのですが……」

 口許に手を置き、睫毛を伏せるダクワーズ。

 と、

『そのことなんだが』
「きゃあ!?」

 彼女からしてみれば急に現れた精霊王が、日頃は動じない騎士団長の表情を変えた。

「ダメだぞ万物の王、ダクワーズを脅かしちゃ」
「そっ……そうです精霊王様。私には具現化していない貴方が見えないのですから」
『うむ、そうであったな。まあそんなことはよい』

 二人の抗議も意に介さず、マイペースな精霊王は言葉を続ける。

『二人っきりの甘い時間を邪魔するようだが客人だ』
「客人?」

 起き上がったランシッドの緩くウエーブがかった灰桜の髪が、その動きで僅かに揺れた。
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