~世界の表裏~

「心配事が減ったようだな、おまえら。少しすっきりした顔をしているぞ」

 マーブラム城、玉座の間。
 しばし離れていたデュー達がフォンダンシティから戻るなり、全員の顔を見渡してモラセス王が放った一言がそれだった。
 グラッセとの因縁にひとつの終止符を打てたことで、特にオグマの表情の変化が顕著に見えたらしい。

 だが、浮かない様子の王は溜め息をつくと背もたれに寄り掛かる。

「……こちらの方は未だ動きなしだ。マンジュの民や聖依獣達との連絡は取り合っているのだが」
「その話ですが、モラセス王……」

 あれからそう日数が経っていないとはいえ、あがらない成果がモラセス達の憂鬱を招いている。
 王の傍らに佇むトランシュやザッハ、フレスも同様にしずんだ顔をしていた。
 そこに進み出たスタードが跪いて、元は魔物だったグラッセから得た情報を報告するべく口を開いた。

「……“総てに餓えし者”か。王家の歴史書に、災いの代名詞のように密かに記されていた言葉だ。ただ、詳しいことは微妙にぼかされていた」
『ふふーん、ここでわしの出番じゃなー』

 と、自然に割り込んできたのはフィノいわく“声だけでわかるもふもふ感”の持ち主。
 見た目は動く巨大モップ、その実態は聖依獣の隠れ里にて長老をつとめる、むーちゃんことムースだ。

「いつも唐突だな、毛玉爺」
『けっ、るっせーわい髭爺! わしはその“総てに餓えし者”の情報を知る貴重なもふもふ、らぶりーむーちゃんじゃぞ!』
「動く特大清掃用具がなんだって?」
『ああん?』

 いつものように声だけ王都に出現したムースは、いつの間にかモラセス王相手にどんどん軽口を叩きあう間柄になっていたらしい。
 この場にいた誰もがツッコミを入れたくなりながらもそれを飲み込むが……

「なんでもいいから話進めてくれよ爺さんズ」
「デュランダル!」

 ごつんと場違いなげんこつの音が玉座の間に響き渡る。

「……おい、そいつ大丈夫か?」
「ま、いつものことじゃ」

 脳天を襲った痛みに悶絶してうずくまるデューだが、仲間の誰も彼を心配するそぶりを見せない。
 気にしない気にしない、と孫娘は祖父に手を振るのだった。
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