~凍れる瞳~

 マーブラム城の地下で魔物に取り憑かれたザッハを元に戻して、それから。

「ガトー殿は元気になっただろうか……」
「そこも気になるけど今回は別の用事で来たんだろ、オグマ」

 デュー達は王都を離れ、フォンダンシティに来ていた。
 職人の街、煌めきの街とも言われるここはオグマの騎士団時代からの育ての親で名工であるガトーが住んでいるのだが、一番の目的は彼に会うことではなかった。

「本当にここにグラッセがいるのですか、スタード殿?」
「本人が確かにそう言ったのだ……城下町に涌いた魔物を退治していた時にな」

 決戦の時にデューやオグマ達、マーブラム城の地下へ一足先に向かったメンバーは知らないが、城下町で戦っていたスタード達のところにはしばらく姿をくらましていたグラッセが現れた。
 因縁があるオグマがいないのを見ると特に何もせず立ち去ったらしいが……

「グラッセの素顔にはびっくりしましたよ、旦那」
「ええ、本当に」

 リュナンとイシェルナが腕組みをしてしみじみと呟く。

「素顔まで見せて、ここで待ってるというメッセージだけ残していったのか?」
「仮面は事故で外れちゃったんですけどね。もしかしたらグラッセさん、遅かれ早かれ素顔を明かすつもりだったのかもしれません」

 当時を思い出しながらフィノが付け加える。
 きっとその時のグラッセは彼女にそう感じさせるような雰囲気を漂わせていたのだろう、とオグマは考え込んだ。

「グラッセのこと、向き合うのはいいですけどね。一人で抱え込んじゃうのはナシですよ、旦那」
「あ、ああ……リュナンも、いきなり噛みついてはいけないぞ?」
「……あの顔見たらそんな気も失せましたよ」

 目の前でオグマが殺されかけた一件から、グラッセを目の敵にしているリュナンに冷静になるよう注意するが、返ってきた反応はいつもとは違うものだった。

「リュナン?」
「旦那……たぶん、グラッセはこれで“終わり”にするつもりです」
「早まった真似をしなければいいがな……」

 珍しく神妙な面持ちのリュナンにスタードも頷いた。
 首を傾げるオグマやその場にいなかった者達は「実際に見た方が早い」とグラッセの素顔については聞かされていない。

 素性も知れず、オグマを憎み、殺そうとまでした仮面の男。

(グラッセ……お前は一体……)

 何者で、何をしようというのか。

 フォンダンシティはいつも通りの穏やかさで、その中に不釣り合いな黒衣の青年は見当たらなかった。
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