~もつれた糸~
以前、ミレニアが楔の術を打ち込んだマナスポットが存在するマーブラム城地下大空洞の奥地。
そこに近付くにつれ、ある者は我知らず眉間に皺を寄せ、またある者は息苦しさに胸を押さえた。
すると……
「ねぇ、これ何?」
「こんなもの、ここにはなかったはずだが……」
行く先に見えた光景にそれぞれが怪訝そうな顔をする。
そこには灰色の、例えるなら蜘蛛の糸を幾重にも束ねて強靭にした風なものがそれこそ巣のように張り巡らされていた。
奥へ行けば行くほど密度を増していくそれを辿っていくと、マナスポットの真上に、人ひとりくらい軽く包めてしまうほどの繭を思わせる塊があった。
「な、なんだ、これは……」
えもいわれぬ不気味さに頭上に視線をとられたまま後退りしたオグマの足に糸が僅かに触れる。
「うぐっ……!」
『まずい! 離れろ、オグマ!』
蒼雪の舞姫が具現化し、苦しみだした契約者の手を引いて糸から離させる。
一瞬だったが接触した部分から生じた光が糸を伝い、繭に吸い込まれていった。
「あ……」
『どうやらこの糸は、触れたものの力……マナを吸い取るようだな。もう少し離れるのが遅かったら、お前は意識を失っていた』
冷静な彼女の言葉にふらついたオグマを託されたリュナンが震え上がる。
そしてそんなものが張り巡らされている場所が王都の地下でマナの源泉の上、という事実。
「マナスポットのマナを、吸い上げているというのか……」
「俺が魔物化していた時、霊峰のマナを吸収しに行ったことがあったろう。こいつは己が身を強化したり傷を癒したりするのにマナを喰らう」
モラセスがすっかり身体に馴染んだ魔物の皮膚を浮き上がらせて見せ、説明した。
と、その時だった。
「そう、だからこの場所は身を潜めるのに最適だった。ケットル火山で受けたダメージも、豊富なマナですぐに癒えたよ。それに、何より……」
くぐもったその声は繭の中から聞こえていた。
同時に、蠢きだしたそれを突き破って、魔物の腕があらわれた。
「ひっ……!」
シュクルが思わず毛を逆立て、身をかたくする。
下手に攻撃など仕掛けても逆に危険だと本能で悟った他の仲間たちも固唾を呑んで、内部から這い出すモノを凝視した。
「おじうえ……」
ミレニアが小さく声をあげた。
聞き覚えのあるその声はやはり、彼女が大好きな叔父、ザッハのものであった。
「貴方の守ろうとする世界を、王城……貴方の足元から崩す。最高に愉快じゃありませんか、父上?」
その姿を見たオグマが言葉を失う。
普段通りの服装から全てをうかがい知ることはできないが、前よりもさらに魔物化が進んだ……二対の翼を生やし顔以外の大半を黒い皮膚に覆われ、長い指に鋭い爪をもった“化物”となっていた。
「俺がそれを許すと思うか、ザッハ」
「浄化の術もない貴方など怖くはありませんよ」
地面から一斉に無数の影の触手をうねらせ、ザッハが不敵に笑うと、
「どうかな……おもいきり殴られたら痛いものは痛いだろう?」
モラセスはニィと口の端を吊り上げ、目を細めた。
そこに近付くにつれ、ある者は我知らず眉間に皺を寄せ、またある者は息苦しさに胸を押さえた。
すると……
「ねぇ、これ何?」
「こんなもの、ここにはなかったはずだが……」
行く先に見えた光景にそれぞれが怪訝そうな顔をする。
そこには灰色の、例えるなら蜘蛛の糸を幾重にも束ねて強靭にした風なものがそれこそ巣のように張り巡らされていた。
奥へ行けば行くほど密度を増していくそれを辿っていくと、マナスポットの真上に、人ひとりくらい軽く包めてしまうほどの繭を思わせる塊があった。
「な、なんだ、これは……」
えもいわれぬ不気味さに頭上に視線をとられたまま後退りしたオグマの足に糸が僅かに触れる。
「うぐっ……!」
『まずい! 離れろ、オグマ!』
蒼雪の舞姫が具現化し、苦しみだした契約者の手を引いて糸から離させる。
一瞬だったが接触した部分から生じた光が糸を伝い、繭に吸い込まれていった。
「あ……」
『どうやらこの糸は、触れたものの力……マナを吸い取るようだな。もう少し離れるのが遅かったら、お前は意識を失っていた』
冷静な彼女の言葉にふらついたオグマを託されたリュナンが震え上がる。
そしてそんなものが張り巡らされている場所が王都の地下でマナの源泉の上、という事実。
「マナスポットのマナを、吸い上げているというのか……」
「俺が魔物化していた時、霊峰のマナを吸収しに行ったことがあったろう。こいつは己が身を強化したり傷を癒したりするのにマナを喰らう」
モラセスがすっかり身体に馴染んだ魔物の皮膚を浮き上がらせて見せ、説明した。
と、その時だった。
「そう、だからこの場所は身を潜めるのに最適だった。ケットル火山で受けたダメージも、豊富なマナですぐに癒えたよ。それに、何より……」
くぐもったその声は繭の中から聞こえていた。
同時に、蠢きだしたそれを突き破って、魔物の腕があらわれた。
「ひっ……!」
シュクルが思わず毛を逆立て、身をかたくする。
下手に攻撃など仕掛けても逆に危険だと本能で悟った他の仲間たちも固唾を呑んで、内部から這い出すモノを凝視した。
「おじうえ……」
ミレニアが小さく声をあげた。
聞き覚えのあるその声はやはり、彼女が大好きな叔父、ザッハのものであった。
「貴方の守ろうとする世界を、王城……貴方の足元から崩す。最高に愉快じゃありませんか、父上?」
その姿を見たオグマが言葉を失う。
普段通りの服装から全てをうかがい知ることはできないが、前よりもさらに魔物化が進んだ……二対の翼を生やし顔以外の大半を黒い皮膚に覆われ、長い指に鋭い爪をもった“化物”となっていた。
「俺がそれを許すと思うか、ザッハ」
「浄化の術もない貴方など怖くはありませんよ」
地面から一斉に無数の影の触手をうねらせ、ザッハが不敵に笑うと、
「どうかな……おもいきり殴られたら痛いものは痛いだろう?」
モラセスはニィと口の端を吊り上げ、目を細めた。