~閉ざされた道の先~

“流れ交わりし地と愛しき血の潜む場所、その狭間の闇で待つ”

 ザッハがトランシュに残した言葉を手懸かりに一行が辿り着いたのは、デューが記憶喪失になってすぐの頃に通った、シブーストとアセンブルを繋ぐ洞窟だった。
 洞窟といってもここは比較的つくりが単純で魔物も弱く、旅人からしても少し厄介な通り道程度の認識なのだが……

「これといって変化ないわよねぇ」

 岩の壁に手をやりながら、イシェルナが辺りを見回す。
 呟いた程度のその声は辺りに軽く響き渡った。

「けど、じゃあここはハズレなんですか? また暗号とにらめっこするのは嫌ですよー」
『お待ちなさいな』

 まだそうと決まった訳でもないのにげっそりした声音のリュナンの前に、月光の女神と清き風花、それぞれが姿を現した。

『諦めるのはまだ早いわよ。そうでしょ風花ちゃん?』
『はい。風の流れが一ヶ所、おかしなところがあります……ここですね』

 風の大精霊が示した先にある、何の変哲もない岩壁の一部。
 しかし光の大精霊が強く辺りを照らすと、そこに通路が現れた。

「これは……!」
「視覚から認識を狂わせる……おそらく、九頭竜の路を隠していたのと同じタイプの術でござろう」

 地図上では孤立しているマンジュ島から各地に繋がっている地下通路、九頭竜の路の出口は部外者が誤って迷いこまないよう、結界が張られている。
 それをさらに偽装しているのが、視覚を誤魔化す術なのだ。

『この手の術は一度認識された相手には効かなくなっちゃったりする場合も多いわ。そういう訳だから、もうあーた達には効果がないでしょうね。他の旅人や魔物が入っちゃわないように、元に戻しておくわね』

 女神はそう言って岩壁の幻で道を塞ぐが、確かに通路があるとわかってからでは、妙にそこだけ浮いて見える。

「不思議なもんじゃのう。どうやったってただの壁にしか見えんかったし、しっかりとした質感すらあったのじゃが」
「今はこんなもんに騙されてたのかってくらい、偽物だってよくわかるな」
『目に見えるものだけが全てじゃないってことよ。あらっ、今いい事言ったじゃなぁい? 偉大な大精霊様っぽい? ねぇねぇ♪』

 得意気な月光の女神にだが返事はなく、ぞろぞろと幻をすり抜けて隠し通路の奥へと入っていくデュー達。
 ぽつんと残されたのは彼女とその契約者、フィノのみであった。

『ちょっとぉ、無視ってひどくなぁい!?』
「じょ、状況が状況ですから……」

 どこから取り出したのだろうかハンカチを噛み締めて怒りだす女神に、神子姫は苦笑で返した。
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