~焔の叫び~

 アラカルティアの地図を広げると、北西の方にやや大きめの、三日月型の島がある。
 その島、アナナス島には人は住んでおらず、ケットル火山と呼ばれる山があるのみで、普通なら近付くものもいないため定期船など出ていない。

「こんなところに用があるなんて、なんだか大変だねぇ。じゃあここで待ってるから、気を付けて行ってきてねー! 疲れたら船室で休んでいいからね!」
「ありがとうなのじゃ、キャティ!」

 ミレニア達はブラックカーラント号でここまで運んでくれたキャティ達に別れを告げ、火の大精霊を探しに火山へと足を踏み入れるのであった。

―ケットル火山―

「わかっていたけど、やっぱり暑いわね……」

 イシェルナが片手で自らを扇ぎながら、もう片方の手で首もとを開け、風を招き入れる。
 そんなことをしても焼け石に水なのはわかりきっているのだが、やらずにはいられない暑さだった。

 彼女の肌を滑り滴る汗もなかなかに魅力的だが、それを楽しむ余裕はなさそうだ、とデューはぼんやり考える。

「お、そうじゃオグマ、クリスタリゼの時みたいにこんどはオグマがやってみたらどうじゃ?」
「クリスタリゼの時……ああ、そういうことか」

 ミレニアに言われるままオグマは目を閉じ、父親がわりの名工が作った蛍煌石のブローチにマナを込める。
 するとデュー達をひんやりとした冷気が包み込み、茹だるような暑さが和らいだ。
 以前、極寒の北大陸ではミレニアが火のマナで仲間達の寒さを防いでいたが、今回はオグマが氷のマナで同様にバリアを張ったのだ。

「おお、涼しい!」
「これで体力の消耗も抑えられるだろう。先に進むぞ」

 険しい山道は上へ上へと続いており、火口へ向かっているようだった。
 これからさらに暑くなるのかと思うと、オグマの力がなければこの先は相当厳しいものになっただろう。

『賢明だな。ケットル火山には確かに奴がいる……“豪腕の焔”がな。それもあって火口の方はこことは比べ物にならん暑苦しさだろうな』
「豪腕の焔……なんか強そうじゃのう」

 清らかな冷気を纏って現れた蒼雪の舞姫に、ミレニアがふむと口元に手を置いた。

『事実強いだろうが、な……』

 はぁ、と溜め息を溢す蒼雪の舞姫。
 氷の精霊だから火や暑さが苦手なのだろうか、彼女のげんなりとした表情は珍しく、契約者であるオグマが怪訝そうに首を傾げる。

 山を仰ぐと、熱気に歪んだ空が見えた。
1/5ページ
スキ