~無邪気なる雷電~

 クリスタリゼの港から北東にしばらく行くとある、マンジュにあったそれよりも高い塔。
 近付くと何故か暗雲が立ち込め、周辺だけ稲光が照らしていた。

―雷鳴の塔―

 宵闇の塔ほどではないものの内部はやや薄暗く、灰色の冷たい無機質な壁や床に描かれた幾何学的な模様らしきものが印象的であった。

「なんか、今まで入ったとことは雰囲気違うのう」
「この模様は一体何なのだろうか……」

 最初に辿り着いた扉の前には丸い石を頂いた台座がふたつ、扉を挟む形で置かれている。
 そして台座の下からはぐるりと扉を囲むように模様が、もう片方の台座を終点にして描かれていた。

「扉が開かない……押しても引いてもだめみたいです」
「嬢ちゃんの力じゃ重かったですか? 仕方ないですね、ここは俺が……ふんだらばっ!?」

 扉に苦戦するフィノの代わりにリュナンが開けようとしたが、彼の力でもびくともしなくて結局いい所を見せることはできなかった。
 肩を上下させ、ぜえはあと荒い息を吐き出す青年の肩を、実体化した地の大精霊がぽんと叩く。

「あ、あれぇ……なんで……?」
『こりゃあ、仕掛けがあるようだゼ。そこの聖依獣、あの台座に蛍煌石使ってマナを当ててみな』
「拙者でござるか?」

 荒ぶる地獣に促されるまま、勾玉を象った蛍煌石の首飾りにマナを込め、発した光線を一方の玉に当てる。
 すると台座の模様をなぞるように光が走り、終点に辿り着くと両の玉が輝いて扉が開いた。

「ほえー……変わった仕掛けですねえ」
「カッセである必要性は、やっぱ属性の適性が関係してんのか?」

 先程より明るくなった内部を見回しながら、デューは再び消えようとした地獣に尋ねる。

『まぁそういうことなんだゼ。こいつの適性は雷、そしてここにいる大精霊も……』

 と、全員の視線が扉の向こうに集まる。

 そこにいたのは宙にふよふよと浮かぶ雷を纏った球体。
 切れ長の大きな目らしきものがふたつ、まっすぐにこちらを見つめている。

「大精霊……なのか?」
『★※∀♭!』
「えっ、なんて?」

 実体化しているはずのそれが発した声は、デュー達が認識できる言葉ではなかった。
 ただ、一人を除いては……

「いや、遊びに来たのではないでござるよ」
「カッセ、わかるのか?」
「え? あ、ああ」

 きょとんとするカッセには、どうやら当たり前のように大精霊らしき球体の言葉がわかっているようだ。
 するとまた奇怪な音声と共にくるりと背を向け、球体はどこかへ消えてしまった。

「あっ、待つでござる!」
「今度はなんて言ったんだ?」
「おにごっこしよう、だ! 厄介なことになりそうでござるよ……」

 溜め息を吐きながら歩き出したカッセの背をデュー達も追っていく。

 雷の光が窓から入り、次いで轟音が空気を震わせた。
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