~風の呼び声~
カッセの報告に立ち寄ったマンジュの里で闇の大精霊と契約を果たしたデュー達だったが、本来の目的地はその先にある東大陸、神子姫の里パスティヤージュだった。
大精霊がいる場所はマナの偏りがある場合が多く、神子姫が特別な啓示を受ける場所があるというパスティヤージュなら或いは、とのモラセス王の提案に従っているのだ。
たとえハズレでも、フィノの母親で優れた能力の神子姫であるレファイナに何かしらの手がかりを聞けたらという狙いがあった。
「ああ……この空気、ほっとします」
「やっぱり故郷に戻ると落ち着くんだな」
砂まじりの乾いた風を肌に受け、のびのびとした様子のフィノにオグマが口許を綻ばせる。
紆余曲折経て辿り着いた神子姫の里では、フィノ同様露出と装飾の多めな独特の装束を纏ったスタイルの良い女性を見かけることも少なくなく、その度にリュナンがだらしなく鼻の下をのばしては注意されていた。
「あら、帰って来てたのね」
「おかあさん!」
風に揺れて波打つ長い橙の髪。
おっとりとしているがリュナンにファンタスティックボインと称されるイシェルナでも驚くような迫力のプロポーションを惜し気もなく見せる、いろんな意味でフィノみたいな娘がいるとは思えない女性。
かつて娘が旅立つ切っ掛けとなった王都の障気騒動を予知した神子姫、レファイナだ。
「来る事は知っていた、という顔だな」
「だいたいの経緯もね。でも、残念だけど“月白の祭壇”は月が満ちないとだめなのよ」
すっかり失念していたらしいフィノがあっと声をあげた。
「満月までまだ数日あるでござるな」
「ひたすらここで待つんですか? 俺は目の保養になっていいですけど」
幸いそれほど日数は先ではないが、パスティヤージュにただ滞在し続けるにはやや長い。
世界の状況を考えると、できるだけ時間を有意義に使いたいものだが……
「あ、そういえば……クーベルチュール街道を東にしばらく行くと高い山があるんだけど、最近様子がおかしいのよねぇ」
「東の山……ラングド山か。さらに東にある街、サラマンドルとの中間地点だな」
「そこから吹く風が人を惑わすとかで街道を通るのにも影響しちゃって、ちょっと前からサラマンドルへの道が塞がれちゃっているの。腕の立つところで、あなた達ちょっと調べて貰えるかしら?」
スタードが地図をひろげ、パスティヤージュから東に長くのびる街道を指先でなぞって「ここだな」と仲間に示す。
辺りは険しい山々に囲まれ、徒歩にしろ馬車にしろそこを通らなければその先の街には行けないようになっていた。
「なんとかしないと不便なままですね」
「満月の夜までには戻って来られそうかな……じゃあちょっと行ってみるか」
みんなもそれでいいか、とデューが確認すると誰も異論はないようで、仲間達からは頷きが返ってきた。
「ありがとう、気を付けてね」
「いってきます、おかあさん」
パスティヤージュいちの神子姫は、優しく微笑んで愛娘を送り出す。
「……世界の命運を託された者達、その行く先は決して緩やかな道ではないわ。どうか、気を付けて」
不安渦巻く胸中を、 こうして道を示すしか出来ない己への無力感を、 悟られないよう包み隠して。
大精霊がいる場所はマナの偏りがある場合が多く、神子姫が特別な啓示を受ける場所があるというパスティヤージュなら或いは、とのモラセス王の提案に従っているのだ。
たとえハズレでも、フィノの母親で優れた能力の神子姫であるレファイナに何かしらの手がかりを聞けたらという狙いがあった。
「ああ……この空気、ほっとします」
「やっぱり故郷に戻ると落ち着くんだな」
砂まじりの乾いた風を肌に受け、のびのびとした様子のフィノにオグマが口許を綻ばせる。
紆余曲折経て辿り着いた神子姫の里では、フィノ同様露出と装飾の多めな独特の装束を纏ったスタイルの良い女性を見かけることも少なくなく、その度にリュナンがだらしなく鼻の下をのばしては注意されていた。
「あら、帰って来てたのね」
「おかあさん!」
風に揺れて波打つ長い橙の髪。
おっとりとしているがリュナンにファンタスティックボインと称されるイシェルナでも驚くような迫力のプロポーションを惜し気もなく見せる、いろんな意味でフィノみたいな娘がいるとは思えない女性。
かつて娘が旅立つ切っ掛けとなった王都の障気騒動を予知した神子姫、レファイナだ。
「来る事は知っていた、という顔だな」
「だいたいの経緯もね。でも、残念だけど“月白の祭壇”は月が満ちないとだめなのよ」
すっかり失念していたらしいフィノがあっと声をあげた。
「満月までまだ数日あるでござるな」
「ひたすらここで待つんですか? 俺は目の保養になっていいですけど」
幸いそれほど日数は先ではないが、パスティヤージュにただ滞在し続けるにはやや長い。
世界の状況を考えると、できるだけ時間を有意義に使いたいものだが……
「あ、そういえば……クーベルチュール街道を東にしばらく行くと高い山があるんだけど、最近様子がおかしいのよねぇ」
「東の山……ラングド山か。さらに東にある街、サラマンドルとの中間地点だな」
「そこから吹く風が人を惑わすとかで街道を通るのにも影響しちゃって、ちょっと前からサラマンドルへの道が塞がれちゃっているの。腕の立つところで、あなた達ちょっと調べて貰えるかしら?」
スタードが地図をひろげ、パスティヤージュから東に長くのびる街道を指先でなぞって「ここだな」と仲間に示す。
辺りは険しい山々に囲まれ、徒歩にしろ馬車にしろそこを通らなければその先の街には行けないようになっていた。
「なんとかしないと不便なままですね」
「満月の夜までには戻って来られそうかな……じゃあちょっと行ってみるか」
みんなもそれでいいか、とデューが確認すると誰も異論はないようで、仲間達からは頷きが返ってきた。
「ありがとう、気を付けてね」
「いってきます、おかあさん」
パスティヤージュいちの神子姫は、優しく微笑んで愛娘を送り出す。
「……世界の命運を託された者達、その行く先は決して緩やかな道ではないわ。どうか、気を付けて」
不安渦巻く胸中を、 こうして道を示すしか出来ない己への無力感を、 悟られないよう包み隠して。