~王と職人と~
煌めきの街フォンダンシティの大通りからやや外れたところにひっそりとただずむ、見た目にはそう目立つものでもない小さな工房。
ともすれば賑わいに紛れて見落としてしまいそうなそこに、それでも工房の主を求めて訪れる者がいるのは、彼が世界でも稀少な技術をもった名工ゆえ。
アトミゼで水の、南の洞窟で地の大精霊との契約を終えたデュー達は、カミベルの器の製作を依頼したガトーのもとへ、改めて足を運んだ。
しかしそこでの光景に彼らは一瞬目を疑い、言葉を失うことになる。
「なっ、ななな……」
「遅かったなお前達……少し静かにしていろ」
しれっとそこにいた、本来なら王都で玉座についていなければならない人物……モラセス王が、人差し指を立てて注意を促す。
その傍らには申し訳なさそうに縮こまるスタードの息子フレスの姿が。
(どういう事だ!?)
(も、申し訳ありません、父上……)
親子が秘かにアイコンタクトでやりとりしている間に、仲間達の視線は作業場へ。
「ガトー殿……」
オグマの治癒術ですっかりよくなったのだろうか、ガトーが細やかな装飾の施された小箱に両手をかざし、かたく瞼を閉ざしていた。
ガトーのもとに意思をもつかのように光が集まりだし、その手を通じて練り上げながら小箱に注がれていく。
そして強い輝きを放ったかと思えば、見た目には変わっていないはずの小箱に不思議と「命を吹き込まれた」実感があった。
これが、ガトーが名工と呼ばれる所以である。
武骨な強面の男からは想像もつかない繊細なマナのコントロール、美しく幻想的な工程に、誰もが声もなく見守っていた。
「ふー……」
「すごいのじゃ……」
ガトーは深く息を吐くと机に突っ伏し「待たせたな」とデュー達を見上げる。
ぽたりと滴り落ちる汗に呼吸も荒くなり、目からはいつもの鋭さも消え、ひどく消耗しているのが誰の目からも明らかだった。
「待たせたな、ではない! 無茶はしないんじゃなかったのか!?」
「うるせえな、ちゃんと回復を待ったっての……年をとったら体力落ち、て……」
憤りをあらわにするスタードに反論する元気もないガトーは、言い終わるより早く意識を手放してしまう。
「いつもだったらこれで倒れたりはしないでしょう……無理はなさらないでくださいって、言ったのに」
おそらく回復を待ったと言っても、作品をきちんと作り上げられるギリギリの体力しかなかったのだろう。
いくら誤魔化したところで日頃から父親がわりである彼の仕事ぶりをよく知っているオグマにはお見通しで、名工渾身の作品を手に取り、悲しげに水浅葱の目を伏せた。
ともすれば賑わいに紛れて見落としてしまいそうなそこに、それでも工房の主を求めて訪れる者がいるのは、彼が世界でも稀少な技術をもった名工ゆえ。
アトミゼで水の、南の洞窟で地の大精霊との契約を終えたデュー達は、カミベルの器の製作を依頼したガトーのもとへ、改めて足を運んだ。
しかしそこでの光景に彼らは一瞬目を疑い、言葉を失うことになる。
「なっ、ななな……」
「遅かったなお前達……少し静かにしていろ」
しれっとそこにいた、本来なら王都で玉座についていなければならない人物……モラセス王が、人差し指を立てて注意を促す。
その傍らには申し訳なさそうに縮こまるスタードの息子フレスの姿が。
(どういう事だ!?)
(も、申し訳ありません、父上……)
親子が秘かにアイコンタクトでやりとりしている間に、仲間達の視線は作業場へ。
「ガトー殿……」
オグマの治癒術ですっかりよくなったのだろうか、ガトーが細やかな装飾の施された小箱に両手をかざし、かたく瞼を閉ざしていた。
ガトーのもとに意思をもつかのように光が集まりだし、その手を通じて練り上げながら小箱に注がれていく。
そして強い輝きを放ったかと思えば、見た目には変わっていないはずの小箱に不思議と「命を吹き込まれた」実感があった。
これが、ガトーが名工と呼ばれる所以である。
武骨な強面の男からは想像もつかない繊細なマナのコントロール、美しく幻想的な工程に、誰もが声もなく見守っていた。
「ふー……」
「すごいのじゃ……」
ガトーは深く息を吐くと机に突っ伏し「待たせたな」とデュー達を見上げる。
ぽたりと滴り落ちる汗に呼吸も荒くなり、目からはいつもの鋭さも消え、ひどく消耗しているのが誰の目からも明らかだった。
「待たせたな、ではない! 無茶はしないんじゃなかったのか!?」
「うるせえな、ちゃんと回復を待ったっての……年をとったら体力落ち、て……」
憤りをあらわにするスタードに反論する元気もないガトーは、言い終わるより早く意識を手放してしまう。
「いつもだったらこれで倒れたりはしないでしょう……無理はなさらないでくださいって、言ったのに」
おそらく回復を待ったと言っても、作品をきちんと作り上げられるギリギリの体力しかなかったのだろう。
いくら誤魔化したところで日頃から父親がわりである彼の仕事ぶりをよく知っているオグマにはお見通しで、名工渾身の作品を手に取り、悲しげに水浅葱の目を伏せた。