~地の試練~
霧の山脈アトミゼの内部に広がる洞窟で水辺の乙女との契約を済ませたデュー達は、山の出口を目指して下っていった。
「このままガトー殿のところに戻っても、まだ器は出来上がっていないだろうな……」
オグマが口許に手を置き、呟く。
そもそもこの近辺にやって来たのは大精霊との契約の他にフォンダンシティの名工・ガトーに、実体を失ったカミベルが留まれる器を作って貰うためだったが、ガトーは結界が一度破壊された時に吹き出た穢れたマナの影響で寝込んでしまっていた。
浄化はしたもののしばらく臥せっていた人間がすぐに動けるとは思えない。
そうなると、このタイミングで工房に戻るのは少々早い気がするが……
『事情は大方把握しました。浄化の力を得るため、我々大精霊との契約をしに各地を回っているのですね』
ふわりと漂うように宙に浮かんだ水辺の乙女が契約者である少年剣士をのぞきこむ。
「まぁそうなるな。アンタ、お仲間の居場所他にどこか知らないか?」
やっぱ色っぽいなー、などと外れた事も考えていたのはなるべく表情に出さず、デューは彼女を見上げた。
『そうですね……私も全員の居場所は知りませんが実は一人、すぐ近くにいます。行ってみますか?』
「え、マジかよ?」
ええ、と微笑む水辺の乙女。
近場にあるのなら、先に寄ってしまった方がいいだろう。
そして彼女に告げられた先は、フォンダンシティの南に位置する洞窟だった。
一行はアトミゼからもそう遠くないそこへ、フォンダンシティに戻る前に立ち寄ることにした。
「ほんとに近くでしたね……それにしても、綺麗なところ……」
初めての光景にフィノが感嘆を漏らす。
岩壁のあちこちに蛍煌石の輝きが見られるそこは以前、魔物退治に向かったことがあるが、精霊がどうとかという話は聞いたことがない。
そして騒動が落ち着いたためか以前はいなかった警備の人間が入り口に立っていた。
年齢も格好も統一性のない集団であるデュー達は、見ようによっては怪しく感じられるのか、さっそく警備の視線が突き刺さる。
「ものすごく怪しまれてるけど……大丈夫なの?」
「私が話をつけてこよう」
そう言ってスタードは一人、洞窟の番人へ歩み寄る。
残りのメンバーはしばらく遠巻きに見守っていたが、スタードが懐から何やら出して見せると、番人は慌てて彼に頭を下げた。
「教官さん、何を見せたんですか?」
「ああ、これか? 魔法の紙だ」
戻ってくるなりリュナンが訪ねると、スタードは少し戯けてみせ、一度しまったそれを再び取り出す。
「これは……王様の署名と、調査許可証?」
「この南の洞窟のように一般人が容易に立ち入れない場所に入らなくてはならない時、役に立つだろうと王が持たせてくださったものだ」
正式な書類である証に署名と共に王家の印が捺されているそれは、王都を発つ直前にモラセス王から渡されたのだろう。
こんなにすぐに使うことになるとは思わなかったが、と王の忠臣は微笑んだ。
「このままガトー殿のところに戻っても、まだ器は出来上がっていないだろうな……」
オグマが口許に手を置き、呟く。
そもそもこの近辺にやって来たのは大精霊との契約の他にフォンダンシティの名工・ガトーに、実体を失ったカミベルが留まれる器を作って貰うためだったが、ガトーは結界が一度破壊された時に吹き出た穢れたマナの影響で寝込んでしまっていた。
浄化はしたもののしばらく臥せっていた人間がすぐに動けるとは思えない。
そうなると、このタイミングで工房に戻るのは少々早い気がするが……
『事情は大方把握しました。浄化の力を得るため、我々大精霊との契約をしに各地を回っているのですね』
ふわりと漂うように宙に浮かんだ水辺の乙女が契約者である少年剣士をのぞきこむ。
「まぁそうなるな。アンタ、お仲間の居場所他にどこか知らないか?」
やっぱ色っぽいなー、などと外れた事も考えていたのはなるべく表情に出さず、デューは彼女を見上げた。
『そうですね……私も全員の居場所は知りませんが実は一人、すぐ近くにいます。行ってみますか?』
「え、マジかよ?」
ええ、と微笑む水辺の乙女。
近場にあるのなら、先に寄ってしまった方がいいだろう。
そして彼女に告げられた先は、フォンダンシティの南に位置する洞窟だった。
一行はアトミゼからもそう遠くないそこへ、フォンダンシティに戻る前に立ち寄ることにした。
「ほんとに近くでしたね……それにしても、綺麗なところ……」
初めての光景にフィノが感嘆を漏らす。
岩壁のあちこちに蛍煌石の輝きが見られるそこは以前、魔物退治に向かったことがあるが、精霊がどうとかという話は聞いたことがない。
そして騒動が落ち着いたためか以前はいなかった警備の人間が入り口に立っていた。
年齢も格好も統一性のない集団であるデュー達は、見ようによっては怪しく感じられるのか、さっそく警備の視線が突き刺さる。
「ものすごく怪しまれてるけど……大丈夫なの?」
「私が話をつけてこよう」
そう言ってスタードは一人、洞窟の番人へ歩み寄る。
残りのメンバーはしばらく遠巻きに見守っていたが、スタードが懐から何やら出して見せると、番人は慌てて彼に頭を下げた。
「教官さん、何を見せたんですか?」
「ああ、これか? 魔法の紙だ」
戻ってくるなりリュナンが訪ねると、スタードは少し戯けてみせ、一度しまったそれを再び取り出す。
「これは……王様の署名と、調査許可証?」
「この南の洞窟のように一般人が容易に立ち入れない場所に入らなくてはならない時、役に立つだろうと王が持たせてくださったものだ」
正式な書類である証に署名と共に王家の印が捺されているそれは、王都を発つ直前にモラセス王から渡されたのだろう。
こんなにすぐに使うことになるとは思わなかったが、と王の忠臣は微笑んだ。