~聖なる森の花畑で~

――いつも同じ夢を見る。

 遥か遠く、ともすれば霞んでしまいそうな時の果てにそれでも褪せることなく煌めく、若かりし頃の思い出を。

 昨日のことのように鮮明なそれを幾度となく追い求める己の手には、次第に皺が刻まれていった――



 若き日のモラセスはよく城を抜け出しては遊びに行く、いまひとつ王族の自覚に欠ける青年であった。
 大概は王都の城下町やその周辺をぶらついて終わるのだが、今回はふと遠出をしてみたくなり、騎士団長率いる隊の馬車に忍び込んだ。

 ……もちろん最後まで隠れ通せる訳ではなかったが、騎士たちが気付いた頃には馬車は大陸の端にある小さな村の手前まで来ていた。

「も、モラセス様、どうしてこんな危険な真似を……」
「社会勉強の一環だ。お前たちがもっと勉強しろだのなんだのうるさいからな。あとこの辺りの魔物は弱いんだろ? 自分の身は自分で守れるから私はお前たちの任務の邪魔をしないよう適当にあちこち見てくる」

 勉強は億劫だったが武人としての才はあったモラセスは捕獲しようとする騎士団長ブオルの腕を軽やかにすり抜けた。
 ついでに今まで口煩く言われてきたことや、聞き齧った知識を利用して。

「夕方までには帰るからなー」

 呆気にとられる騎士たちに手を振ると、モラセスはさっさと姿を消してしまう。

「ぐ、いつものことながらこういう時の屁理屈と素早さときたら……あれが次期の王か……」

 対象を捕まえ損ねた情けない格好でそれを見ているしか出来なかった壮年騎士団長は、盛大に溜め息を吐いて頭を抱えるのだった。
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