~海上の出会い~
――王都から遠く遠く、果てない距離を飛んでいった魔物……変わり果てた姿となった中央大陸の王、モラセスは、一面に広がる銀世界の中にいた。
「見渡しても見回しても虚のような白が続くばかり……今の私そのものだな、この光景は」
自嘲気味に呟いた王が額に手をやると、腕の大部分を覆う明らかに人のものではない硬く暗い色の皮膚が視界に入る。
それはたまに意思をもつかのように蠢き、隙あらば王の体を乗っ取ろうとしているように見えた。
こんな姿になって、どこへともなく姿を消して、今ごろ城では大騒ぎになっているだろう。
王が魔物になってしまった、乗り移られて乱心した、と。
「……ククッ」
こみあげる笑いで、口の端がつり上がる。
突風が雪を容赦なく老体に叩きつけるも、堪える様子もない。
皮肉なことに、魔物と化したことで彼は人の常識を超えた強さを手にいれたのだ。
「こうなってしまったからには後戻りは出来ん。せめて、一目……」
ぽつりと呟くと切れ長の目から鋭さが消え、そのまなざしは遥か彼方、距離も時間も飛び越えた先へ。
優しい光が射し込む花畑。そこで微笑む女性は、色褪せることなく輝いていた。
「……カミベル」
名前を呼ぶ声も、伸ばした手も、彼女に届くことはない。
まして、長い時が過ぎてただ老いただけではなくこんな姿に成り果ててしまった自分を見て、彼女がどう思うだろうか。
「どんなことをしてでも、逢いに行く」
何十年も昔の話だ。端から見れば馬鹿げているとも、狂っているとも思えよう。
或いは唯一、王であろうと遠慮なしにずけずけとものを言ったあの男なら、正面から止めようとしたのかもしれない。
……それでも、
「俺は正気だよ、残念なことにな」
深緋の瞳は、揺れることなく正面を見つめていた。
「見渡しても見回しても虚のような白が続くばかり……今の私そのものだな、この光景は」
自嘲気味に呟いた王が額に手をやると、腕の大部分を覆う明らかに人のものではない硬く暗い色の皮膚が視界に入る。
それはたまに意思をもつかのように蠢き、隙あらば王の体を乗っ取ろうとしているように見えた。
こんな姿になって、どこへともなく姿を消して、今ごろ城では大騒ぎになっているだろう。
王が魔物になってしまった、乗り移られて乱心した、と。
「……ククッ」
こみあげる笑いで、口の端がつり上がる。
突風が雪を容赦なく老体に叩きつけるも、堪える様子もない。
皮肉なことに、魔物と化したことで彼は人の常識を超えた強さを手にいれたのだ。
「こうなってしまったからには後戻りは出来ん。せめて、一目……」
ぽつりと呟くと切れ長の目から鋭さが消え、そのまなざしは遥か彼方、距離も時間も飛び越えた先へ。
優しい光が射し込む花畑。そこで微笑む女性は、色褪せることなく輝いていた。
「……カミベル」
名前を呼ぶ声も、伸ばした手も、彼女に届くことはない。
まして、長い時が過ぎてただ老いただけではなくこんな姿に成り果ててしまった自分を見て、彼女がどう思うだろうか。
「どんなことをしてでも、逢いに行く」
何十年も昔の話だ。端から見れば馬鹿げているとも、狂っているとも思えよう。
或いは唯一、王であろうと遠慮なしにずけずけとものを言ったあの男なら、正面から止めようとしたのかもしれない。
……それでも、
「俺は正気だよ、残念なことにな」
深緋の瞳は、揺れることなく正面を見つめていた。