~空席の玉座~

 主を失った玉座の間の天井には人ひとり悠々と通れる穴が開いており、日が傾きかけた空の色が、嘘みたいによく見える。

 魔物のような姿に変わり空の彼方に飛び去っていったモラセス王の行方は、杳として知れない。

 残されたデュー達が呆然と立ち尽くしていたら、どやどやと騎士がなだれ込んできた。

「トランシュ隊長、これは一体……!」
「っ!」

 一番ショックが大きく、立ち直れていなかったトランシュも部下の声に我にかえり、騎士ひとりひとりの顔を確認する。
 そこには仮面の騎士、グラッセと魔学研究所から駆けつけたのだろうかザッハの姿もあった。

「……これは」
「これより先、誰も玉座の間へ通すな!」

 よく通る声は寝癖頭の昼行灯とは思えない、ザッハのものだった。

 王の不在、荒れた玉座の間、剣を抜いたデューとトランシュ。

 後から来た彼等にこの場を見ただけで状況を完全に飲み込むのは不可能だが、少なくとも緊急事態だということだけは把握したようだ。

「ザッハ様……」
「詳しい話は後で聞くよ、トランシュ。みんな、ここで見た光景は全て他言無用だ。余計な混乱は避けなければならない」

 グラッセも続いて迅速に指示を出し、混乱を最小限にとどめようと動き始めた。
 一瞬、オグマの方に視線をやったが、人目がある中で優先すべき事項を誤るような男ではないようだ。

「お前達もわかっているな。ここで見聞きしたことを外部に漏らすような真似はするな」
「……あんたに言われなくたって、それくらいわかる」

 剥き出しの敵意を声色に滲ませ、リュナンが答えた。

「なら、部外者は早く去れ。処理の邪魔だ」
「――ッ!」
「いくぞリュナン、早くカッセを休ませたい」

 クロムイエローの目がグラッセを睨むが、ぎらついた眼光は仮面の奥にまでは届かない。

「ほら、行こう」
「旦那っ……」

 グラッセに殺されかけた当人であるはずのオグマに宥められてはそれ以上食い下がることも出来ず、不満そうにリュナンもその場をあとにした。
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