~不穏な影~
初めてこの東大陸に来た時とは反対側に位置する、ちいさな港。
ここからも東グランマニエ港への船が出ていて、元いた大陸へ戻ることができる。
「さて、これからどうするか……北の大陸も調べるか?」
世界地図の上方にある、ジャンドゥーヤよりもやや大きな大陸を指さしてデューは仲間たちを振り返った。
彼には記憶がなく、世界に関する知識も抜け落ちているため、こういう時は尋ねる側に回る。
「クリスタリゼ、か……どのみちここからは向かえないから一度グランマニエに戻る必要があるな」
「アセンブルのある方、あっちの港からならクリスタリゼへ行けるわよ」
知識の豊富なオグマとあちこちを旅しているイシェルナの言葉で、北大陸への選択肢が示される。
「あ、カッセはマンジュには戻らなくていいのか? 報告とかいろいろあるんじゃないか?」
「ああ、それならば……」
カッセが空に向かって手を掲げると、どこからともなく一羽の鳥が飛んできて、そっと降り立った。
彼は鳥に括りつけられた小さな手紙を広げ、視線を落とす。
「なるほど、里との連絡はそうやってしてたんですね」
「いくら各地に九頭竜の路があるとはいえ、いちいち戻る労力と時間が惜しい……む」
文字を辿っていた赤銅色の猫目が、すうっと細められた。
「どうかしたのか」
「……王都で妙な動きを察知した、と」
「調べにゆくのかの?」
静かに頷くと仲間たちに背を向け、歩き出す小柄な青年。
行き先が同じ大陸なら船に乗るまでは一緒じゃないのか、と浮かべた疑問はしかしすくに解消されることとなった。
「九頭竜の路は地下に張り巡らされただけのただの道ではござらん。里の秘密かつ複雑な仕掛けゆえ普段は使えんが、移動距離を大幅に短縮出来る」
「えぇー、じゃあ俺船よりそっち行きたいー」
前回の船酔いに加え魔物の襲撃まであった初航海がよほど堪えたのか、リュナンは不満げに口を尖らせた。
「オレ達は部外者だ。そう簡単に教えてくれる訳ないだろ?」
「……本来なら九頭竜の路の存在を教えたのも、緊急時の特例ゆえ。申し訳ないが理解して戴こう」
それに、とカッセは腕に留まった鳥をデューの前に差し出す。
「別々に動くからこそ出来ることもあろう……この者達のマナをよく覚えておけ、クズキリ。拙者に何かあれば伝えられるように」
クズキリ、と呼ばれた鳥はデュー達一人一人の肩や頭に留まると、記憶に刻みつけるようにじっと目を閉じた。
「何かあればって縁起でもねーな」
「城内に潜入するとあらば危険も伴う。用心するのも当然でござろう」
「ま、それもそうか。気を付けていけよ、カッセ」
またな、とデューの声を背に、カッセは彼らの側を離れた。
ここからも東グランマニエ港への船が出ていて、元いた大陸へ戻ることができる。
「さて、これからどうするか……北の大陸も調べるか?」
世界地図の上方にある、ジャンドゥーヤよりもやや大きな大陸を指さしてデューは仲間たちを振り返った。
彼には記憶がなく、世界に関する知識も抜け落ちているため、こういう時は尋ねる側に回る。
「クリスタリゼ、か……どのみちここからは向かえないから一度グランマニエに戻る必要があるな」
「アセンブルのある方、あっちの港からならクリスタリゼへ行けるわよ」
知識の豊富なオグマとあちこちを旅しているイシェルナの言葉で、北大陸への選択肢が示される。
「あ、カッセはマンジュには戻らなくていいのか? 報告とかいろいろあるんじゃないか?」
「ああ、それならば……」
カッセが空に向かって手を掲げると、どこからともなく一羽の鳥が飛んできて、そっと降り立った。
彼は鳥に括りつけられた小さな手紙を広げ、視線を落とす。
「なるほど、里との連絡はそうやってしてたんですね」
「いくら各地に九頭竜の路があるとはいえ、いちいち戻る労力と時間が惜しい……む」
文字を辿っていた赤銅色の猫目が、すうっと細められた。
「どうかしたのか」
「……王都で妙な動きを察知した、と」
「調べにゆくのかの?」
静かに頷くと仲間たちに背を向け、歩き出す小柄な青年。
行き先が同じ大陸なら船に乗るまでは一緒じゃないのか、と浮かべた疑問はしかしすくに解消されることとなった。
「九頭竜の路は地下に張り巡らされただけのただの道ではござらん。里の秘密かつ複雑な仕掛けゆえ普段は使えんが、移動距離を大幅に短縮出来る」
「えぇー、じゃあ俺船よりそっち行きたいー」
前回の船酔いに加え魔物の襲撃まであった初航海がよほど堪えたのか、リュナンは不満げに口を尖らせた。
「オレ達は部外者だ。そう簡単に教えてくれる訳ないだろ?」
「……本来なら九頭竜の路の存在を教えたのも、緊急時の特例ゆえ。申し訳ないが理解して戴こう」
それに、とカッセは腕に留まった鳥をデューの前に差し出す。
「別々に動くからこそ出来ることもあろう……この者達のマナをよく覚えておけ、クズキリ。拙者に何かあれば伝えられるように」
クズキリ、と呼ばれた鳥はデュー達一人一人の肩や頭に留まると、記憶に刻みつけるようにじっと目を閉じた。
「何かあればって縁起でもねーな」
「城内に潜入するとあらば危険も伴う。用心するのも当然でござろう」
「ま、それもそうか。気を付けていけよ、カッセ」
またな、とデューの声を背に、カッセは彼らの側を離れた。