~砂海に潜む魔~

 旅人を容赦なく照りつけていた太陽もなりをひそめ、吹き荒ぶ砂嵐が辺りの把握を阻むカソナード砂海のもうひとつの顔。
 日差しによるダメージは軽減されたものの自然というものはこうも表情を変えるものなのか、と魔物の襲撃から目を覚ました一行は呆気にとられた。

 しかし、その仲間たちも互いに全員の姿を確認出来た訳ではない。

「姐さんと嬢ちゃんだけ、ですか……あとのみんなは?」
「わからないわ。どこか別の場所に飛ばされたのかも」
「無事だといいのですが……」

 リュナンはとりあえず見つけることができたイシェルナとフィノを交互に見、溜め息を吐いた。
 今回ばかりは両手に花だと鼻の下を伸ばしている場合ではないだろう。

「早く合流したいけど、右も左も砂砂砂……ちょっとうんざりしちゃうわね。むやみに大声出して探し回るのはさっきの魔物に襲ってくださいって言ってるようなものだし」

 イシェルナは砂まみれの紫黒の髪を払い、苦笑した。
 遠くを見通せない上にどこを向いても同じ風景に見えるというのは、なかなか厳しい。

「ああんもう、あちこち砂だらけ! お風呂入りたーい!」
「同感です……それにしても、方角もわからないのにどっちに進んだらいいの?」

 フィノが困り顔で愛用の杖を引き寄せると、シャランと鳴子が揺れた。

 涼やかな音色にリュナンとイシェルナははたと顔を見合せる。

「……それよ、フィノちゃん」
「えっ?」
「あなたの占いに託してみるのよ、あたし達の行き先を!」
「ええっ!?」

 思いもしなかった提案に出てしまった声に慌てて口許を押さえるフィノ。
 幸いにもそれは風の音にかき消され、遠くまでは響かなかった。

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