~乾いた大地を踏みしめて~

 マンジュ島から世界各地へ、地の底、海の下を通るいくつにも分かれた『九頭竜の路』。
 世間には知られていない秘密の通路だが、魔物が住み着いてしまって久しいらしく、たびたび遭遇しては戦闘になった。

「ひぃ、なんでこんなにうじゃうじゃと……どっから涌いてくるんですかー!」

 リュナンが大袈裟に嘆いてみせながら斧槍を振るう。
 喚く余裕があるようなら大丈夫だな、とデューが身の丈ほどもある大剣をひと薙ぎに払った。

「うーむ、さすがに海の底、魚介類っぽい魔物が多いのう」

 そう言ってミレニアが意識を集中させると、赤色の光が彼女の周りを舞い遊ぶ。

「紅玉抱きし炎竜よ、その気性赴くままに暴れ、牙を剥け!」

 炎が意思をもつかの如く集い、竜の形を成す。
 竜はひと吼えすると狙いを定め、魔物を飲み込みながら一直線に駆け抜けた。

「どっかーん! 焼き魚一丁上がりなのじゃ♪」
「それ食うのイヤだぞ俺は」

 取り囲まれていたはずなのに、この余裕。
 むしろ数と態勢で勝っていた魔物は一匹、また一匹と倒され、立場は逆転していた。

「これが、彼らの力……実力もさることながら、見事な連携……」

 ぽつりとカッセが言葉を洩らす。
 不利ならば加勢でもと思っていたのだが、その必要もないようだ。

「軽口を叩きあいながらそれをこなしてしまうところが、彼らの恐ろしいところだな。若い芽は伸びるのも早い」
「それをまとめているのが貴方でござろう、オグマ殿。騎士団の、それなりの地位にいて前線で隊を率いていた経験がゆえか」

 仲間たちの成長が嬉しいのかしみじみ語るオグマに、カッセは視線を向ける。
 赤銅色の瞳は、どれだけの情報を知っているのだろうか。

「……私はただの隠居した元騎士だ。何も出来ないさ、カッセ」

 水浅葱の目が一瞬哀しげに細められ、長いみつあみが揺れた。
 戦闘を終えた仲間たちに怪我はないかと歩み寄って治癒術をかけるオグマは、逃げたのか否か。

 路は、緩やかな上り坂に差し掛かっていた。
1/5ページ
スキ