~竜の路を往く~

 ひょんな事から流れ着いたマンジュ島には、美しき長、ミナヅキが束ねる独自の文化をもった里がひっそりと存在していた。

 デュー達は彼女に事情を話し、厚意に甘えてひとまず宿で疲れを癒すことにした。

 その、明くる日の朝……

「外から来られた、聖依獣を連れた一行というのは、あなたがたですね」

 里の人間だろう。独特の装束に身を包んだ青年が、デュー達が泊まる部屋を訪ねてきた。

「ミナヅキ様が、話があるので来て欲しいとの事です。長の屋敷は里の北にありますので、準備ができ次第おいでください」
「ああ、わかった」

 長の使いは事務的に用件を伝えると頭を下げ、去っていく。

「んー、この畳部屋の心地よさ、離れがたいのぅ」

 ミレニアは、植物を編んで作られた床―オグマによると畳というらしい―が気に入ったのか、気持ち良さそうに寝そべって転がっている。

 きちんと作法を教わって、靴を脱ぐのも忘れずに。

「いいから行くぞ。準備は出来てるだろ」
「あーん、デューのいけずーなのじゃー!」

 心底名残惜しそうな少女をなかばひきずるようにして、デューは宿を発った。


 長の屋敷を探して里を歩くと、一目でそれとわかる建物が見えた。
 入り口からふわり、と良い香りに迎えられ、素朴だがどこか厳かな雰囲気に呑まれて我知らず背筋を正す。

「来ましたね」

 まだ、玄関に立っただけなのに。
 美しさ、たおやかさとは裏腹に、ただ者ではないのだろうとわかるミナヅキの声が響き、「失礼します」とオグマが足を進めた。

 紙が張られた戸を静かに開け、中へと踏み入ると、やはり畳の部屋にミナヅキが座っていた。
 周りには、ここに座れということなのだろう、人数分の座布団が置かれている。

「よく来てくださいました。さぁ、こちらへ」

 促されて思わず正座するデュー達に、マンジュの長はゆっくりと口を開いた。

「……まず、我々についてお話しなくてはなりませんね。マンジュの民は聖依獣と……貴方の仲間と、現在も交流を続けています」
「聖依獣と……!?」

 弾かれたように立ち上がったのはシュクルだった。
 今はもう、人間の前から姿を消してしまった種族、聖依獣。
 己以外に同族を知らないシュクルは、真剣なまなざしでミナヅキを見上げていた。
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