~陸を離れて~
王都からやや離れたフォンダンシティ、名工ガトーの工房にて。
「……」
「…………」
どのくらい時間が経っただろう、長いだろうかはたまた些細なものだろうか。
鬼瓦のような強面職人と仮面の男が無言のにらみ合いをしていた。
先に痺れを切らしたのは、ガトーの方。
「なんなんだよ、おめえ……」
「なんなんだ、とは?」
首を傾げる男に勢いよくテーブルを叩き、身を乗り出す。
長身の男からすればガトーはやや小さく、つま先立ちでようやく目線が近付いた。
「さっきから黙って人のことじーっと見てやがって、依頼ならそう言えよ!」
「違う」
「じゃあなんだよ? こんなとこに用もなく何度も通うようなヤツ、そうそういねえぞ!?」
その腕は作品に命を吹き込み、一度は王室に請われたほどだと言われているが、性格に少々癖があり煙たがられることもしばしば。
ましてや、依頼でもなければ近寄る人間は稀だ。
それは周知の事実であり、ガトー自身もよくわかっている。
「噂と、俺の知っている貴方は違う」
重い口を開いた仮面の男に、ガトーは眉間の皺を深くした。
「は? なんだよそれ、仮面野郎に知り合いはいねえぞ?」
「貴方は知らなくても、俺は貴方を知っている。よく、覚えている」
男は顔の上半分を隠す白銀の仮面に手をかけ、ゆっくりとガトーの目の前で外してみせる。
「なっ、おめえ……その面ぁ……」
ガトーは驚きに言葉を失い、その場に立ち尽くした。
――一方、王都では。
墓地で仮面の男に襲われ深手を負ったオグマも戦闘に支障ないくらい回復したらしく、出発の準備をしていた。
「それで、次の目的地はどうするのだ?」
シュクルが尻尾をゆらしながら一行を見上げた。
「そうだな、港から他の大陸に行くか……だとしたら、ネグリート砦側か橋を渡ってアセンブル側……」
「ネグリートからだと南東に少し行った東グランマニエ港で、ジャンドゥーヤへの船が出ていますよ」
東大陸ジャンドゥーヤから渡ってきたフィノが仲間たちに説明すると、リュナンの目が期待に輝いた。
「それはつまり嬢ちゃんの故郷でご両親がいる訳で紹介なんかされちゃったりして? いやぁ照れるなぁ~」
「なんでそうなる」
だらしなく鼻の下を伸ばす青年に少年がすかさずツッコミを入れる。
紹介自体はされるかもしれないが、ここで言う場合は明らかに意味が違っていた。
「フィノちゃんの故郷か、行ってみたかったのよねぇ」
「そうじゃのう……神子姫の里パスティヤージュ、じゃったか?」
ミレニアが地図を広げ、東大陸の一点を指し示す。
山に囲まれた渇いた大地に砂漠が広がっており、見たところ中央大陸のように人が住む場所は多くない。
「フィノ、東大陸のマナスポットに心当たりはあるか?」
デューが尋ねると、フィノは口許に手をあて考え込む。
「そうですね、砂漠の中心に遺跡があるというのは知っているのですが、そこがマナスポットかどうかは……」
「それこそ、土地の人間に聞くのが一番じゃの」
すっかり行く気になっているミレニア達に、デューはやれやれと目を細めた。
記憶がない彼には世界のことはわからず、別に他に決まった目的地がある訳でもなし、特に文句はない。
「じゃあ、まずは東グランマニエ港を目指すってことでいいか?」
「……」
とりあえずこの中で一番知識が豊富で冷静なオグマに確認をとってみるが、返事はない。
「……オグマ、大丈夫か? まだ傷が……」
「えっ、あ、だ、大丈夫だ」
珍しく考え事で上の空になっていたらしく、心ここにあらずな年長者を少年は心配そうに見つめる。
「ちょっと、しっかりしてよね?」
「す、すまない……」
申し訳なさそうに小さく縮こまるオグマに、イシェルナは溜め息を吐いた。
「……」
「…………」
どのくらい時間が経っただろう、長いだろうかはたまた些細なものだろうか。
鬼瓦のような強面職人と仮面の男が無言のにらみ合いをしていた。
先に痺れを切らしたのは、ガトーの方。
「なんなんだよ、おめえ……」
「なんなんだ、とは?」
首を傾げる男に勢いよくテーブルを叩き、身を乗り出す。
長身の男からすればガトーはやや小さく、つま先立ちでようやく目線が近付いた。
「さっきから黙って人のことじーっと見てやがって、依頼ならそう言えよ!」
「違う」
「じゃあなんだよ? こんなとこに用もなく何度も通うようなヤツ、そうそういねえぞ!?」
その腕は作品に命を吹き込み、一度は王室に請われたほどだと言われているが、性格に少々癖があり煙たがられることもしばしば。
ましてや、依頼でもなければ近寄る人間は稀だ。
それは周知の事実であり、ガトー自身もよくわかっている。
「噂と、俺の知っている貴方は違う」
重い口を開いた仮面の男に、ガトーは眉間の皺を深くした。
「は? なんだよそれ、仮面野郎に知り合いはいねえぞ?」
「貴方は知らなくても、俺は貴方を知っている。よく、覚えている」
男は顔の上半分を隠す白銀の仮面に手をかけ、ゆっくりとガトーの目の前で外してみせる。
「なっ、おめえ……その面ぁ……」
ガトーは驚きに言葉を失い、その場に立ち尽くした。
――一方、王都では。
墓地で仮面の男に襲われ深手を負ったオグマも戦闘に支障ないくらい回復したらしく、出発の準備をしていた。
「それで、次の目的地はどうするのだ?」
シュクルが尻尾をゆらしながら一行を見上げた。
「そうだな、港から他の大陸に行くか……だとしたら、ネグリート砦側か橋を渡ってアセンブル側……」
「ネグリートからだと南東に少し行った東グランマニエ港で、ジャンドゥーヤへの船が出ていますよ」
東大陸ジャンドゥーヤから渡ってきたフィノが仲間たちに説明すると、リュナンの目が期待に輝いた。
「それはつまり嬢ちゃんの故郷でご両親がいる訳で紹介なんかされちゃったりして? いやぁ照れるなぁ~」
「なんでそうなる」
だらしなく鼻の下を伸ばす青年に少年がすかさずツッコミを入れる。
紹介自体はされるかもしれないが、ここで言う場合は明らかに意味が違っていた。
「フィノちゃんの故郷か、行ってみたかったのよねぇ」
「そうじゃのう……神子姫の里パスティヤージュ、じゃったか?」
ミレニアが地図を広げ、東大陸の一点を指し示す。
山に囲まれた渇いた大地に砂漠が広がっており、見たところ中央大陸のように人が住む場所は多くない。
「フィノ、東大陸のマナスポットに心当たりはあるか?」
デューが尋ねると、フィノは口許に手をあて考え込む。
「そうですね、砂漠の中心に遺跡があるというのは知っているのですが、そこがマナスポットかどうかは……」
「それこそ、土地の人間に聞くのが一番じゃの」
すっかり行く気になっているミレニア達に、デューはやれやれと目を細めた。
記憶がない彼には世界のことはわからず、別に他に決まった目的地がある訳でもなし、特に文句はない。
「じゃあ、まずは東グランマニエ港を目指すってことでいいか?」
「……」
とりあえずこの中で一番知識が豊富で冷静なオグマに確認をとってみるが、返事はない。
「……オグマ、大丈夫か? まだ傷が……」
「えっ、あ、だ、大丈夫だ」
珍しく考え事で上の空になっていたらしく、心ここにあらずな年長者を少年は心配そうに見つめる。
「ちょっと、しっかりしてよね?」
「す、すまない……」
申し訳なさそうに小さく縮こまるオグマに、イシェルナは溜め息を吐いた。