~魔学研究所にて~

 結界に護られた唯一の都市、王都。
 山のように聳えるマーブラム城を見上げ、一行は溜息を零した。

「相変わらずでっかい城ですねぇ……」
「いきなり縮む訳ないだろ」

 至極もっともなデューの切り返しに「そりゃそうなんだけどそうじゃなくて」と笑みをひきつらせるリュナン。
 そんな彼等の今回の目的地は王城ではなく、その隣にある建物。
 壁の風化度合いなどそこかしこから歴史を感じるマーブラム城とは違い、比較的新しい建造物だ。

「ここが魔学研究所、ですか……」
「王都の外、少し離れた所にももうひとつあるんだがな。知り合いがいるのはここだ」

 言いながらオグマが扉を叩こうとした時、さくさくと草を踏む音が近づいてきた。

「オグマ、オグマじゃないか!」
「……ああ、久し振りだな、ザッハ」
「ザッハじゃと?」

 その声にミレニアが顔を上げる。
 分厚い黒縁眼鏡に寝癖頭を整えもしない、ひょろりとした長身痩躯を白衣で包んだ、いかにもな研究者然とした男。
 ザッハ、と呼ばれたその男は、ミレニアを見つけるなり寝ぼけ眼を僅かに見開く。

「ミレニア、君までこんな所に……一体どういう事なんだい!?」
「うわぁい久し振りなのじゃおじうえー!」
「久し振りだねぇすっかり大きくなっぶほっ」

 ミレニアの強烈な体当たりにも近い突撃で吹っ飛ばされる長身の男。

「おい、大丈夫かこいつ……」
「それよりミレニアちゃん、おじうえって言ったわよね?」

 ミレニアの下敷きになった男がよろよろと体を起こす。
 寝癖頭は今の騒ぎでさらに酷い事になっていた。

「えーと、君達は……ミレニアやオグマのお友達かい? 僕はザッハ。ミレニアのお母さんの弟なんだ」
「ミレニアちゃんのおじさんなんですね」
「そういう事。それにしてもオグマ、君までどうして、ミレニアと一緒に?」

 埃を払って立ち上がったザッハは、オグマと目線を合わせた。

「君がわざわざここに来たって事は、ただ事じゃなさそうだけど」
「ああ、調べて貰いたいものがある」

 オグマは懐から小さな袋を取り出し、ザッハに手渡す。
 中身はどこかグロテスクな欠片がひとつ、大きさの割にずっしりとした重みをもって入っていた。

「なんだい、これ? 気色悪いなぁ」
「それは……」

 重苦しく告げた袋の中身の正体に、ザッハが目を見開いた。

「……取り扱いには、くれぐれも注意をしてくれ」
「ああ、わかったよ」

 そこには冴えない昼行灯の姿はなく、魔学研究のエキスパートとしての彼がいた。
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