~マナの泉を穢す者~
フォンダンシティで有名な、人を寄せつけない凄腕頑固職人の工房。
実際のところ寄ってくる人間はいるものの、その大半が職人の鋭い眼光とぶっきらぼうな態度にはねのけられているというだけなのだが、作品を愛するあまり気にくわない依頼人に物を投げつけて追い出してしまったこともあり。
そうして噂が噂を呼び、仕事の依頼以外では滅多な事で人が近寄らなくなった。
……そんな、噂の工房兼住居に一人の男が足を踏み入れた。
その気配に職人……ガトーは作業する手を止め、客を見上げる。
長身の青年だった。青褐色の短髪に黒ずくめの服。表情がよく見えないのは工房の薄暗さのせいではなく、彼の顔の上半分を覆い隠す白銀の仮面のせい。
「……何だてめえ」
訝る気持ちを隠さず、ガトーは片眉を上げた。
良くも悪くもこの正直さが、この職人の性質だ。
「…………、……」
男が小さく息を呑んだ気がした。
「妙ちきりんなお面しやがって、何の仮装だ?」
「俺、は……」
薄く開いた唇からぽつりと声が零れる。
が、何かを堪えるように再びきつく結ぶと、男は踵を返した。
「あ、おい、何か用があって来たんじゃねえのか?」
「……用がなくても、あの男は来るんだろうな」
背中越しに吐き出された言葉は、心なしか寂しげに聞こえる。
だがガトーが呼び止める間もなく、仮面の男は去っていってしまった。
「お、おい待てって!……何なんだよ、あいつ……」
工房に一人残されたガトーは、訳もわからず頭を掻いた。
――そんな邂逅があったその頃、デュー達はシブースト村の外れにある聖霊の森の奥深く、隠された地下遺跡に来ていた。
豊富なマナを生むマナスポットを探しに来たはずのここで、この大地の下にもうひとつの世界が存在している事を示唆する壁画を見つけ、壁に埋め込まれた蛍煌石の僅かな灯りを頼りに奥へと進む。
「埃っぽいのう……随分長いこと掃除してないんじゃないかの?」
「造りは古いが、ところどころに最近何者かが立ち入った形跡がある。入り口は特殊な仕掛けが施されていたというのに、妙だな……」
オグマが辺りを見回しながら唸る。
デュー達が遺跡に通じる階段を見つけたのも、ほんの偶然だった。
石碑によって隠されていたそれを開いた鍵は、ミレニアの髪飾りとシュクルの首輪らしいのだが……
「チビちゃん、さっき入り口を開いた時に光ったその髪飾り……一体何なんですか?」
「これはおばあさまに貰った大事な髪飾りなのじゃ。それ以外はよくわからん」
「……うさ公のその首輪の石は?」
「わからぬ。余が生まれた時から側にあった。手放してはいけない気がして、ずっと身に着けておったが……」
どちらも鍵についてはよくわかっておらず、リュナンは首を捻る。
「なんか重要な鍵っぽいんですけど、何なんでしょうね……?」
と、先頭を歩くデューの足が止まる。
「……オグマ、さっき言っていた『最近何者かが立ち入った形跡』って、こいつらの事じゃないのか?」
言いながら大剣の柄に手をかけ、抜き放つ。
視線は目の前に現れた敵…………暗闇に溶け込む黒い躯は四足歩行で這い回り、目が退化したらしい顔に歯だけが白く光っている、見たこともない不気味な姿をした魔物から外さずに。
「な、なんですか、あれ……」
おぞましさにフィノが怯えた声を出す。
「怖いなら下がってるか、フィノ?」
「……いいえ、わたしも戦います!」
「だと思った。うちの女性陣は勇ましい奴ばっかりだな」
すぐさまシャランと音を立て、杖を構えるフィノに余計な心配だったかとデューは苦笑した。
実際のところ寄ってくる人間はいるものの、その大半が職人の鋭い眼光とぶっきらぼうな態度にはねのけられているというだけなのだが、作品を愛するあまり気にくわない依頼人に物を投げつけて追い出してしまったこともあり。
そうして噂が噂を呼び、仕事の依頼以外では滅多な事で人が近寄らなくなった。
……そんな、噂の工房兼住居に一人の男が足を踏み入れた。
その気配に職人……ガトーは作業する手を止め、客を見上げる。
長身の青年だった。青褐色の短髪に黒ずくめの服。表情がよく見えないのは工房の薄暗さのせいではなく、彼の顔の上半分を覆い隠す白銀の仮面のせい。
「……何だてめえ」
訝る気持ちを隠さず、ガトーは片眉を上げた。
良くも悪くもこの正直さが、この職人の性質だ。
「…………、……」
男が小さく息を呑んだ気がした。
「妙ちきりんなお面しやがって、何の仮装だ?」
「俺、は……」
薄く開いた唇からぽつりと声が零れる。
が、何かを堪えるように再びきつく結ぶと、男は踵を返した。
「あ、おい、何か用があって来たんじゃねえのか?」
「……用がなくても、あの男は来るんだろうな」
背中越しに吐き出された言葉は、心なしか寂しげに聞こえる。
だがガトーが呼び止める間もなく、仮面の男は去っていってしまった。
「お、おい待てって!……何なんだよ、あいつ……」
工房に一人残されたガトーは、訳もわからず頭を掻いた。
――そんな邂逅があったその頃、デュー達はシブースト村の外れにある聖霊の森の奥深く、隠された地下遺跡に来ていた。
豊富なマナを生むマナスポットを探しに来たはずのここで、この大地の下にもうひとつの世界が存在している事を示唆する壁画を見つけ、壁に埋め込まれた蛍煌石の僅かな灯りを頼りに奥へと進む。
「埃っぽいのう……随分長いこと掃除してないんじゃないかの?」
「造りは古いが、ところどころに最近何者かが立ち入った形跡がある。入り口は特殊な仕掛けが施されていたというのに、妙だな……」
オグマが辺りを見回しながら唸る。
デュー達が遺跡に通じる階段を見つけたのも、ほんの偶然だった。
石碑によって隠されていたそれを開いた鍵は、ミレニアの髪飾りとシュクルの首輪らしいのだが……
「チビちゃん、さっき入り口を開いた時に光ったその髪飾り……一体何なんですか?」
「これはおばあさまに貰った大事な髪飾りなのじゃ。それ以外はよくわからん」
「……うさ公のその首輪の石は?」
「わからぬ。余が生まれた時から側にあった。手放してはいけない気がして、ずっと身に着けておったが……」
どちらも鍵についてはよくわかっておらず、リュナンは首を捻る。
「なんか重要な鍵っぽいんですけど、何なんでしょうね……?」
と、先頭を歩くデューの足が止まる。
「……オグマ、さっき言っていた『最近何者かが立ち入った形跡』って、こいつらの事じゃないのか?」
言いながら大剣の柄に手をかけ、抜き放つ。
視線は目の前に現れた敵…………暗闇に溶け込む黒い躯は四足歩行で這い回り、目が退化したらしい顔に歯だけが白く光っている、見たこともない不気味な姿をした魔物から外さずに。
「な、なんですか、あれ……」
おぞましさにフィノが怯えた声を出す。
「怖いなら下がってるか、フィノ?」
「……いいえ、わたしも戦います!」
「だと思った。うちの女性陣は勇ましい奴ばっかりだな」
すぐさまシャランと音を立て、杖を構えるフィノに余計な心配だったかとデューは苦笑した。