~森の奥のひみつ~

 デュー、フィノ、オグマの三人はアトミゼ山脈で魔物を操る謎の青年と戦う最中、オグマを追ってきたリュナンと合流する。

 どうにか青年を退け、山中にあるオグマの家で準備がてら休憩を済ませ、一行は改めてマナスポットのあるシブースト村を目指すのだった。

「シブースト村って大陸の端っこのド田舎ですよね? そんなところに王都の地下で見たような、あんなものがあるんですか?」

 山を降りて小休止を挟みつつアセンブルを抜け、あとは街道沿いに歩いて行けば目的地まであと僅かというところ。
 リュナンが口にした疑問にデューがやれやれと肩をすくめ溜息を吐く。

「都会の栄えてるところにばっかりマナスポットがあるとは限らないんだぞリュナン。シブーストは自然が豊かでマナが豊富な所だ」
「へぇ……」

 そうなのか、と素直に感心するリュナン。
 だが、フィノはくすくすと笑って、

「……って、オグマさんが教えてくれたんですよね、デュー君」

 そう付け加えた。

「なっ、旦那の受け売りって少年ずるい! 感心して損したぁ!!」
「フィノ、余計な事を……」

 じとりとした視線からフィノが顔を背けると、正面に薄ら見え始めた村の影。
 どうやらあれが、彼らの目指す村らしい……と言っても、デューにとっては二度目になるのだが。

「あれがそうですか?」
「ああ、シブースト村だ。変わらないな……」

 もっとも三ヶ月程度でそう変わりはしないだろうが。
 入口に近寄ると、いつかの門番がデューに気付く。

「おっ、君は確かミレニアちゃんと一緒にいた……彼氏だっけ?」
「違う。記憶の手掛かりを探しに行ったデューだ」

 一度会っただけで曖昧に覚えていたらしく、デューの説明に門番はポンと手を打った。

「あー、そうだったそうだった! で、あれから何か思い出した?」
「……いや、何も。それより、ミレニアはいるか?」

 そう言われると何を勘ぐったのかニヤニヤしながら「なんだ、やっぱり会いたかったんじゃないか」と村の奥を指差し、

「ミレニアちゃんならちょうど今いるよ。奥の広場で子供達と遊んでる」
「……そうか」

 門番の視線など気にせずデューはすたすたと村の中へと進む。
 フィノが軽く会釈をし、オグマとリュナンも続いていく。

 次々と通り過ぎていく個性的な格好の一行を見送って、

「なんだ、また可愛い子連れて……あの歳で両手に花とか羨ましいぞ、デュー君……」

 ぽつり、と呟くのであった。

「……彼氏、ねぇ?」

 今度はリュナンが、先程の門番と同じような含みをもった視線を少年に送る。

「有り得ないな。むしろ笑える」
「少しは照れりゃいいのに、ホント少年ってクールですよね……けど、チビちゃんとも三ヶ月ぶりかぁ……」

 ほぅ、と息を吐いて思いを馳せるリュナンを横目で一瞥し、

「もふも……シュクル君もですよ」
「あーそうだった、うさ公もか」

 フィノが補足すると彼は至極どうでも良さげな顔をした。
 そういえば以前にも何度か女性がいないと何やら文句をたれていたか、と思い出し、デューが呆れて睨む。

「しばらく会っていないが、ミレニアやシュクルは元気にしているだろうか?」

 やや後ろを歩くオグマが、先頭で視線だけのやりとりが繰り広げられているとも知らず穏やかに目を細めた。

「まだまだ伸び盛りだろうし、ちょっぴり大きくなっていたりしてな」
「三ヶ月ぐらいでそんなに変わるか?」
「……しないのか?」

 否定的なデューの言葉に異を唱え、大袈裟に首を振ったのはリュナンだった。

「いやいやいや少年、チビちゃんだってしばらく見ないうちにおっきくなってるかもしれませんよー?……例えば……」

 何やら丸いものを下から掴み上げて揉むようなしぐさをして見せる青年の頬はだらしなく弛みきって、

「チビちゃんはなかなか将来が楽しみな感じですよねぇ」
「おま、」
「……最低」

 シビアな声色でぴしゃりと言い放ったのは、普段は穏やかなはずのフィノ。
 心なしか、ターコイズの瞳が今は殺気を放っているように見えた。

「じょ、嬢ちゃん……?」
(あー、やっぱ禁句だったか……)

 と、一転して彼女はいつもの花弁が綻ぶような笑顔に戻ると、

「ミレニアちゃんを探しましょう。村の奥の広場、でしたね。行きましょうオグマさん」
「え、ああ……」

 それだけ言ってすたすたと先に行ってしまった。
 名指しで呼ばれたオグマも、次いで歩いていく。

「……ほどほどにしろよ、リュナン」
「は、はーい……」

 少年に咎められ、リュナンはがっくりと肩を下げた。

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