第二部・~幕開け~

 王都を覆った悪夢の霧が晴れ、人々が元の暮らしを取り戻し始めてから三月ほどの時が流れた。

 閉ざされていたネグリート砦の扉はほどなくして開かれ、アセンブルへの橋も復旧し、王都に再び賑わいと平穏が戻りつつあった……

 が、今回の事件が残した爪痕はまだ残っている。

「……ちっ!」

 素早く回り込む三匹の獣に囲まれ、大剣を握る手に力を込める少年……デュー。
 周囲に視線を巡らせ、間合いを、気配を感じ取る。
 研ぎ澄まされた感覚が膨れ上がる殺気を察知した瞬間、身を翻すとさっきまで自分がいた場所目掛けて襲いかかる鋭い爪と牙。

「おっと、残念だったな」

 余裕の笑みを見せながらも警戒は崩さず、先程の一撃を皮切りに次々と繰り出される不規則な魔物達の攻撃をかわし、隙を見て反撃する。

 一匹を倒せば足並みを乱したもう一匹を仕留め、残るは一匹。

「これでっ……」

 デューは上昇しながらの回転斬りで魔物を高く打ち上げると、そこから急降下の勢いで斬りつけ、トドメを刺す。

「終わりだ」

 血糊を払うように剣を振り払うと、もう立っている魔物はいなかった。

「やれやれ、障気が晴れても凶暴化した魔物はそのまま……これじゃ易々と出歩けないな」

 少年が辟易したように息を吐き出した。

(ま、お陰で食うのには困らない、か)

 同時によぎった不謹慎な考えは内心で呟くだけに留めて。

 すると隠れていたらしい馬車がぞろぞろと護衛を連れて現れた。

「やあやあ助かりました。これでアセンブルに行けます。これは約束の護衛代です」

 商人の男が降りてくると、デューに金貨が詰まった革袋を手渡した。
 ずっしりとした感触に、依頼前に聞いた通りの額ではないのではとデューは男を見上げる。

「ああ……少し多くないか?」
「ほんの気持ちです。それにしても小さいのにお強いですねぇ」

 我が子を見るような男の目に悪気はなく、報酬の上乗せもたぶんお小遣いをやるような気持ちなのだろう。
 だからデューは特に反論はせず、男の気持ちを受け取った。

「……助かる」
「いえ、こちらこそ助かりました。それでは私共はこれで……」

 男はお辞儀をすると馬車に乗り、アセンブルへ向かう。
 馬車からぬいぐるみを抱えた小さな子供が顔を出し、デューに向かって手を振った。
 デューもそれに応え、馬車を見送る。

 そして街に辿り着いたのを確認すると、王都への道を歩き出した。

「まだまだガキ扱い、か……生活費は助かるが、複雑だ……」

 なんだかんだ子供扱いを気にしているようで、ぶつくさとぼやきながら。

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