~取り戻した空~

 地下に降りて行く時も相当だったが、上りはそれ以上に果てしなく感じる螺旋階段。

「下りる時はまだいいけど上りはしんどいですね……」
「体力バカが取り柄なんだろ? このぐらいで音を上げるな」
「少年、バカは余計……それじゃあ取り柄って言えないでしょ。体力あってもうんざりするもんはあるの!」

 涼しい顔で皮肉るデューにリュナンは唇を尖らせた。
 人の事を体力バカ呼ばわりするけれども、この少年も相当である。
 リュナンの場合は、疲れたと言うよりも壁と階段と一定間隔にある灯だけという単調な光景に飽きたのだが。

「こういう時は華やかな女の子達を見て……」
「余所見をすると足を踏み外すぞ。ここはただでさえ薄暗くて危ない」
「……すみません」

 後ろを歩く女性陣を視界に入れて目の保養をと振り向けば、すぐさまオグマに咎められる。

「ミレニアをおぶっているトランシュとシュクルを抱いてるオグマもいるんだ。階段でふざけるのはやめろ」

 さらにギロリと睨むデューにリュナンは肩を落として両手の人差し指を突き合わせた。

「ちょっとした冗談なのに……本気でやる訳ないでしょ~」
「あら、それならなんでさっき振り向いたのかしらん?」
「うぐっ……姐さぁ~んっ!」

 ついにはイシェルナにまで言われてしまって情けない声をあげるリュナン。
 会話にこそ参加していないがフィノやトランシュはクスクスと笑っていた。

 王都に着いたばかりの時にはなかった、和やかな空気。

 それというのも……

「わぁぁ……!!」

 外に出た一行の中で、真っ先に感嘆の声を発したのはフィノ。
 ターコイズブルーの瞳に澄んだ青空が映る。

 陽の光を遮っていた悪夢のような障気は消え、閉じ籠っていた王都の人々も外に出て空を見上げている。
 それぞれの表情には驚きや喜びが入り交じっていた。

「本当に……やったんだな」

 確かに地下で障気を発する大元らしき牙を浄化して消滅させた。
 けれどもこの晴れ晴れした空を見るまで、今一つ実感がなかった。

「……取り戻せましたね」
「ああ」

 リュナンがオグマに笑いかけると、穏やかに目を細めて応える。

「これが、王都の空……か」

 結界越しに見える空を仰ぎ、デューはぽつりと呟いた。
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