~“狭間”の居場所~
――物心ついた時には俺は拾われた子で、両親や家族のことなど何一つわからなかった。
けど、周りも同じような境遇ばかりの孤児院でそれはあまり気にならなくて、俺にとっての家族は一緒に育ったそいつらと、俺を拾って育ててくれた神露樹さんやワゴナーさんだと思っていた。
自分の生まれについて知ることはたぶん、これから先もずっとないのだろう。
ずっと……そう、当たり前のように思っていた……――
休日はなんとなく中央を離れ、サードニクスやキズナ達のところに行くのが当たり前になっていたナギサはいつものように用事を済ませると、何気なく街をぶらついて、親代わりの上司への手土産になりそうなものを探していた。
「サードがおすすめっつってたケーキ……いや帰るまでに崩れちまったら嫌だよなあ。うーん……」
と、あちこちへ視線を配りながら歩いていると、道端に広げられた小さな露店が視界に映る。
(アクセサリー……の、店?)
吸い寄せられるように歩み寄ると、店主らしき男がどっかりとあぐらをかき、ナギサを見上げた。
「おう、何か気になるのか?」
まず気になったのは男の風貌。
くしゃりと弛んだ、先の尖った柔らかい帽子は伸ばせば縦にかなり長いだろう。
エプロンを身につけた、全体的に作業着っぽい服装といい、彼自身が纏う雰囲気といい、この街の中では浮いているように感じた。
「……おっさん、初めて見る顔だな」
「最近流れてきたからな。趣味で作ったもん売ってる」
へえ、とシートの上に並んだ装飾品を眺める。
腕輪や指輪、首飾りはどれも見事な装飾で、あまり詳しい訳でも特別興味がある訳でもないナギサにも、これはすごいと感じられた。
(たまにはこういうのあげてみようかな……神露樹さん喜ぶかな)
「大事な人に贈り物か?」
「えっ」
「おめえ、顔に出やすいなあ」
帽子の鍔に隠れ気味だが強面であろうことはうかがえる顎髭の職人は、けらけら笑うとまた雰囲気を変えた。
「上司、に……いつも世話になってるから、って思って……」
「ふうん……その割に、あったけえ目で見るんだなあ。俺にはよくわかんねえけど、ジョーシって言葉を口にする奴はだいたいみんなおめえみたいな顔はしてなかったぜ」
「……よく、見てるな」
職人のぎょろりとした鋭い眼はよく見ると澄んだ緑色で、どこか本質を見透かされているような心地がしたが、不思議とそれを怖いとか不快だとは思わなかった。
「うーん、どんなのがいいかな……洒落た人だから、俺のセンスだと難しいな」
「おう、好きなだけ見ていけ」
それだけ真剣に選んでるなら、きっと伝わるだろうよ。
そう言われたナギサは「ありがと」とはにかみがちに笑うのだった。
けど、周りも同じような境遇ばかりの孤児院でそれはあまり気にならなくて、俺にとっての家族は一緒に育ったそいつらと、俺を拾って育ててくれた神露樹さんやワゴナーさんだと思っていた。
自分の生まれについて知ることはたぶん、これから先もずっとないのだろう。
ずっと……そう、当たり前のように思っていた……――
休日はなんとなく中央を離れ、サードニクスやキズナ達のところに行くのが当たり前になっていたナギサはいつものように用事を済ませると、何気なく街をぶらついて、親代わりの上司への手土産になりそうなものを探していた。
「サードがおすすめっつってたケーキ……いや帰るまでに崩れちまったら嫌だよなあ。うーん……」
と、あちこちへ視線を配りながら歩いていると、道端に広げられた小さな露店が視界に映る。
(アクセサリー……の、店?)
吸い寄せられるように歩み寄ると、店主らしき男がどっかりとあぐらをかき、ナギサを見上げた。
「おう、何か気になるのか?」
まず気になったのは男の風貌。
くしゃりと弛んだ、先の尖った柔らかい帽子は伸ばせば縦にかなり長いだろう。
エプロンを身につけた、全体的に作業着っぽい服装といい、彼自身が纏う雰囲気といい、この街の中では浮いているように感じた。
「……おっさん、初めて見る顔だな」
「最近流れてきたからな。趣味で作ったもん売ってる」
へえ、とシートの上に並んだ装飾品を眺める。
腕輪や指輪、首飾りはどれも見事な装飾で、あまり詳しい訳でも特別興味がある訳でもないナギサにも、これはすごいと感じられた。
(たまにはこういうのあげてみようかな……神露樹さん喜ぶかな)
「大事な人に贈り物か?」
「えっ」
「おめえ、顔に出やすいなあ」
帽子の鍔に隠れ気味だが強面であろうことはうかがえる顎髭の職人は、けらけら笑うとまた雰囲気を変えた。
「上司、に……いつも世話になってるから、って思って……」
「ふうん……その割に、あったけえ目で見るんだなあ。俺にはよくわかんねえけど、ジョーシって言葉を口にする奴はだいたいみんなおめえみたいな顔はしてなかったぜ」
「……よく、見てるな」
職人のぎょろりとした鋭い眼はよく見ると澄んだ緑色で、どこか本質を見透かされているような心地がしたが、不思議とそれを怖いとか不快だとは思わなかった。
「うーん、どんなのがいいかな……洒落た人だから、俺のセンスだと難しいな」
「おう、好きなだけ見ていけ」
それだけ真剣に選んでるなら、きっと伝わるだろうよ。
そう言われたナギサは「ありがと」とはにかみがちに笑うのだった。