~うわさのおばけ~
――神出鬼没のお化けの噂、知っているかい?
そいつは青い髪をみつあみにした、白衣に長身の男。
もし見かけたら、逃げた方がいい。
目をつけられれば最後、行く先々に回り込んで、いつまでもどこまでも追ってくるぞ。
何故なら【白衣の悪魔】は、いくらでも分裂出来るから。
目撃情報だって、その男の年齢じゃ有り得ない、ずっと昔の大先輩から続いているんだ。
……そう、人間じゃない。お化けだからな。
おっと、怪談をすると本物が来るって言うんだっけか。
まぁ、そういう訳だから。お前も気を付けろよ――
「ナギサ、どこだい? 困ったなぁ…」
包容力のある穏やかな声にほんのすこし困惑の色が混じらせて、声の印象そのままの丸いフォルムをした中年男性が、まるで飼い猫を探すようにあちこちに呼び掛ける。
ふっくらした顔に髪を後ろに撫で付け、やや厚みのある眼鏡をかけた温厚そうな男はこれでも本部に所属する軍人、ワゴナー・ヴァレット。
そして現在地は軍の中央本部と街の近くにある支部を結ぶ森の、支部側の入口である。
「あの子は方向音痴なんだよ……だから付き添いが必要だって言ったんだ、シグレ」
少し前に鉢合わせした同僚に向かって、ワゴナーは溜め息を溢す。
もっとも、既に姿も見えなくなった相手に、彼の言葉が届くことはなかったが。
「大丈夫かなぁ、迷子になってないかな……やっぱり向こうまでついて行くんだったな」
心配を募らせ天を仰ぐと、緑の隙間から突き抜けるような青空が見えた。
そいつは青い髪をみつあみにした、白衣に長身の男。
もし見かけたら、逃げた方がいい。
目をつけられれば最後、行く先々に回り込んで、いつまでもどこまでも追ってくるぞ。
何故なら【白衣の悪魔】は、いくらでも分裂出来るから。
目撃情報だって、その男の年齢じゃ有り得ない、ずっと昔の大先輩から続いているんだ。
……そう、人間じゃない。お化けだからな。
おっと、怪談をすると本物が来るって言うんだっけか。
まぁ、そういう訳だから。お前も気を付けろよ――
「ナギサ、どこだい? 困ったなぁ…」
包容力のある穏やかな声にほんのすこし困惑の色が混じらせて、声の印象そのままの丸いフォルムをした中年男性が、まるで飼い猫を探すようにあちこちに呼び掛ける。
ふっくらした顔に髪を後ろに撫で付け、やや厚みのある眼鏡をかけた温厚そうな男はこれでも本部に所属する軍人、ワゴナー・ヴァレット。
そして現在地は軍の中央本部と街の近くにある支部を結ぶ森の、支部側の入口である。
「あの子は方向音痴なんだよ……だから付き添いが必要だって言ったんだ、シグレ」
少し前に鉢合わせした同僚に向かって、ワゴナーは溜め息を溢す。
もっとも、既に姿も見えなくなった相手に、彼の言葉が届くことはなかったが。
「大丈夫かなぁ、迷子になってないかな……やっぱり向こうまでついて行くんだったな」
心配を募らせ天を仰ぐと、緑の隙間から突き抜けるような青空が見えた。