~金色の光~
――――いくら追いかけても縮まらなかった距離、届かなかった手。
いつもならそこで夢は終わっていた。いつもなら。
けれども今回は、続きがあった。
まるで見えない壁があるかのように阻まれていた、その先へ。
まるで最初から壁なんかなかったかのようにすんなり踏み込む事が出来たのだ。
『あっ……』
あまりの呆気なさに思わず声が出た。
しかし拍子抜けしたのは一瞬のこと。
視線は、煌々と輝く金色の光へ。
ずっと求めていた、強く、けれども優しくてあたたかな輝き。
その光が次第に形を変え、そして……
『……ずっと、見守っててくれたんだな……』
"それ"は声に応えるように、形を成していった。―――
「急にドタバタと帰って来たと思ったら、軍人なんか連れて来るなんてね」
妙に刺々しい声音で、この家の主……クレインがファングを睨みつける。
「君達の事とか、軍にバレたらヤバいんじゃなかったのかい?」
「けど、あんな危険な所に放っておく訳には……ルーツの父親だって言うし、それに魔石も……」
はぁ、と大袈裟な溜息にファングは肩を竦ませた。
いつもならやれだらしないだの部屋が汚いだのと叱られるのはクレインの方だが、今回は立場が逆のようだ。
「……それなら子犬君が連れて帰ってくれれば良かったんじゃない?……それか病院とか……」
「ビョー、イン?」
耳慣れない単語だったらしくファングがきょとんとした。
人間の世界なら当たり前の事も、たまにこうして通じなかったりする。
クレインはすっかり馴染んだかに見えた彼が、人とは異なる世界の、人ならざるモノだという事を思い出した。
「ああ、病院知らないのか。向こうの世界にはなかったんだね」
「よくわからないが、ここが一番近かったから……」
いつもと違い淡々とした口調、冷たい目をした相棒がゆっくり歩み寄ってくる威圧に負け、ファングは目を逸らす。
ぽん、と肩に手が置かれ、弾かれたように顔を上げた。
「……やだなぁ、そんなびくびくしないでよ。ちょっと意地悪言っただけじゃないか」
クレインはまたいつものように明るい笑顔を向けていた。
「捨てられた子犬みたいな顔してるよ、ファング」
「あ……す、すまん」
「ま、ちょっとビックリはしたけどね。別にそこまで怒ってないから安心してよ」
ぽんぽんと、今度は安心させるように肩を叩かれた。
「連れて来ちゃったものは仕方ないさ。出来ればこれっきりにして欲しいけどね」
「……ああ」
「そろそろ様子見に行ってあげたら?……僕はまた部屋にこもるから」
「わかった」
連れて帰って来た軍人はファングの部屋に寝かせてある。
そちらへと足を向けるファングだったが、ぴたりと止まり振り向くと、
「クレイン……済まなかった」
「君がそういうのを放って置けないのは知ってるから、怒ってないよ。病院とか知らなかったみたいだしね」
それだけ言葉を交わし、部屋に向かった。
そして、その姿が見えなくなった頃。
「……あまりフェンリルを苛めるな」
「盗み聞きかい?……心配性なお兄ちゃんだな」
いつの間にいたのか、ガナシュが壁に背を預けて立っていた。
「貴様が必要としなくなれば簡単に姿を消すぞ、フェンリルは」
「僕が、ファングを?……それはないな。僕の目的はファングの背中の呪印を解く事だからね」
互いに利害が一致した関係。
それが、出会った当初の話だった。
「それは貴様のくだらん探究心とやらのためか?」
「それもあるけどね。今はそれだけじゃない」
「……そうか」
ガナシュは俯くと、自室に向かって歩き出す。
「ファングって、意外とナイーブだよね」
「貴様が図太いだけだ」
「あとガナ君は意外と優しい」
「やかましい」
振り向く事もなく、スタスタとガナシュは行ってしまう。
「……懐いてくれてたと思ったのに、まだまだ壁は厚いなぁ……」
クレインは大袈裟に肩を落として嘆くと、部屋にこもる準備を始めた。
いつもならそこで夢は終わっていた。いつもなら。
けれども今回は、続きがあった。
まるで見えない壁があるかのように阻まれていた、その先へ。
まるで最初から壁なんかなかったかのようにすんなり踏み込む事が出来たのだ。
『あっ……』
あまりの呆気なさに思わず声が出た。
しかし拍子抜けしたのは一瞬のこと。
視線は、煌々と輝く金色の光へ。
ずっと求めていた、強く、けれども優しくてあたたかな輝き。
その光が次第に形を変え、そして……
『……ずっと、見守っててくれたんだな……』
"それ"は声に応えるように、形を成していった。―――
「急にドタバタと帰って来たと思ったら、軍人なんか連れて来るなんてね」
妙に刺々しい声音で、この家の主……クレインがファングを睨みつける。
「君達の事とか、軍にバレたらヤバいんじゃなかったのかい?」
「けど、あんな危険な所に放っておく訳には……ルーツの父親だって言うし、それに魔石も……」
はぁ、と大袈裟な溜息にファングは肩を竦ませた。
いつもならやれだらしないだの部屋が汚いだのと叱られるのはクレインの方だが、今回は立場が逆のようだ。
「……それなら子犬君が連れて帰ってくれれば良かったんじゃない?……それか病院とか……」
「ビョー、イン?」
耳慣れない単語だったらしくファングがきょとんとした。
人間の世界なら当たり前の事も、たまにこうして通じなかったりする。
クレインはすっかり馴染んだかに見えた彼が、人とは異なる世界の、人ならざるモノだという事を思い出した。
「ああ、病院知らないのか。向こうの世界にはなかったんだね」
「よくわからないが、ここが一番近かったから……」
いつもと違い淡々とした口調、冷たい目をした相棒がゆっくり歩み寄ってくる威圧に負け、ファングは目を逸らす。
ぽん、と肩に手が置かれ、弾かれたように顔を上げた。
「……やだなぁ、そんなびくびくしないでよ。ちょっと意地悪言っただけじゃないか」
クレインはまたいつものように明るい笑顔を向けていた。
「捨てられた子犬みたいな顔してるよ、ファング」
「あ……す、すまん」
「ま、ちょっとビックリはしたけどね。別にそこまで怒ってないから安心してよ」
ぽんぽんと、今度は安心させるように肩を叩かれた。
「連れて来ちゃったものは仕方ないさ。出来ればこれっきりにして欲しいけどね」
「……ああ」
「そろそろ様子見に行ってあげたら?……僕はまた部屋にこもるから」
「わかった」
連れて帰って来た軍人はファングの部屋に寝かせてある。
そちらへと足を向けるファングだったが、ぴたりと止まり振り向くと、
「クレイン……済まなかった」
「君がそういうのを放って置けないのは知ってるから、怒ってないよ。病院とか知らなかったみたいだしね」
それだけ言葉を交わし、部屋に向かった。
そして、その姿が見えなくなった頃。
「……あまりフェンリルを苛めるな」
「盗み聞きかい?……心配性なお兄ちゃんだな」
いつの間にいたのか、ガナシュが壁に背を預けて立っていた。
「貴様が必要としなくなれば簡単に姿を消すぞ、フェンリルは」
「僕が、ファングを?……それはないな。僕の目的はファングの背中の呪印を解く事だからね」
互いに利害が一致した関係。
それが、出会った当初の話だった。
「それは貴様のくだらん探究心とやらのためか?」
「それもあるけどね。今はそれだけじゃない」
「……そうか」
ガナシュは俯くと、自室に向かって歩き出す。
「ファングって、意外とナイーブだよね」
「貴様が図太いだけだ」
「あとガナ君は意外と優しい」
「やかましい」
振り向く事もなく、スタスタとガナシュは行ってしまう。
「……懐いてくれてたと思ったのに、まだまだ壁は厚いなぁ……」
クレインは大袈裟に肩を落として嘆くと、部屋にこもる準備を始めた。