~霧中をもがく~

――暗い。

 まるで黒い霧に覆われてしまったかのような感覚。

 何かを探して必死にもがく自分。

「"   "、"    "ッ!」

 "誰か"の名前を呼ぼうとするが、声にならない。
 その名前が出てこない。

 そうこうしているうちに霧が纏わりつき、身体が重くなっていく。

……冗談じゃない。

 自分は辿り着かなくてはいけない。

 霧の向こうに見える、眩い光に……―――


「……ぶはっ!?」

 ガバッと跳ね起きた男は、肩を上下させ荒い呼吸を繰り返した。
 辺りを見回せばここは、たまに転がり込む仮眠室のベッドの上。

「だ、だいじょぶっすか?」
「はぁっ、……はぁ…………シゲン、か……」

 頭を押さえて呻く男を心配そうに覗き込む長身の部下。

「お水どうぞ」
「俺、どのくらい寝てた?」

 差し出された水を口に含んだ瞬間、時計が視界に入り思わず吹き出しそうになった。

「おまっ……ちょ、もうこんな時間……?」
「司令官、お疲れのようでしたから……」
「うわぁぁぁ十分したら起こせって言ったろー!?」

 慌てて上着を羽織り、仮眠室を飛び出す司令官、サードニクス。

「司令、忘れ物ー!」

 シゲンはサードニクスが忘れていった書類を抱えて彼を追う。

「やっべぇ、後の仕事が遅れちまうっ!」

 そう言いながら廊下を走る司令官の姿は、これでトーストでも咥えていればまるでどこかの漫画の一場面みたいだ……と、目撃した人々が口を揃えて語るのだった。
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