~見つけた背中~

――俺には昔の記憶がない。
 ただわかっているのは、死にかけていた所を軍のお偉いさんに拾われたってこと。

 回復した俺は、行くあてもないので恩返しも兼ねて軍に入って働いた。
 頭を使う事や小難しい事は苦手なんだが、腕っ節を認められてかそれなりに出世は出来た。

 今は小さな街の支部で、そこそこ充実した日々を過ごしている。

 十数年間引っ掛かり続けている、ただひとつの心残りを除いて……――


「今日も街は平和、っと……」

 ボサボサ癖のついたスレートグレイの髪を掻きながら街を歩く一人の男。

 歳は三十代後半あたり、右目の上を通る特徴的な三本の傷に無精髭とそれだけ聞けば厳つい外見だが、明るく表情豊かで親しみを感じやすい。

 彼の名はサードニクス。
 だがそれは十数年前につけられたもので、本当の名は本人も知らない。

「あ、司令官さん!」
「よっ、元気か?」

 軍人というと民間人とはどこか距離をおいた関係だったりする場合が多いのだが、彼とこの街の住人の場合は違う。
 まるで近所付き合いでもするように、気さくに。

 堅苦しい、そして自分であまり似合うと思っていないらしい軍の制服を着る事が少ない、というのも警戒心を和らげているのかもしれないが、何よりサードニクスの人柄によるものだろう。

 自分から心を開けば、相手もそうしやすくなる。

 もちろん誰でもという訳ではないが、少なくとも彼はそうやって街の人々に受け入れられた。

……と、そこに。

「ん? あいつらは……」

 見慣れた軍の制服を視界に捉え、サードニクスは歩調を速めた。
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