~何気ない平穏~

――――その日、二人はばったりと出会った。

 買い物客で賑わう市場にて。

「「あ」」

 気の抜けた声が同時に発せられる。

 冴えた蒼と真っ直ぐな金の視線がかち合った。

「お前は、あの時の……小僧?」
「ルーツだっ! そう言うアンタは遺跡で会ったおっさん!?」
「……ファングだ」

 暗い灰色の髪を面倒くさそうにかきながら、ファングは溜息をついた。

 対する金髪の青年……トレジャーハンター、ルーツは不思議そうに彼を見上げる。

「アンタも買い物?」
「……まぁ、相棒に付き合わされてな」

 ファングは煙草を取り出すと、火をつける。
 近くにはいつも口やかましく彼の煙草を阻止する相棒、クレインの姿はない。
 もっともルーツはまだ直接彼を見た事はないのだが……

「相棒って変な魔法ナンタラの? 一緒なのか?」
「クレインは魔法道具の材料を揃えに行った。俺は別の買い出しだ」
「ふーん……」

 片手に抱えた紙袋には、様々な種類の食材。
 それは凄まじい強さを誇る狼には、なんだか不釣り合いな組み合わせで。

「アンタが料理するのか?」
「クレインは家事がまるっきり出来ないからな……今までどうやって生活していたんだか」

 苦笑しながら積み上げられたリンゴの山から慎重に選び取る。

(意外に所帯染みてるな……)

 なんて事を思いながら、ルーツはその所作をじっと見つめていた。
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