~軍人と一般人と~
『あ』
天狼は思い立ったように声を発した。
それに反応するのは、白衣の相棒。
「どうかしたのかね?」
『ん、いや、ちょっと思い出したんだよね』
実体化していない魔獣は姿が見えていればきっと狼の耳をぴこぴこと動かしてこちらを見ているのだろう。
そう思いながらロキシーは続きを促した。
『んーと、こないだ会った軍人さん……キズナちゃんにシゲン君だっけ?』
「以前気になると言っていたか」
『うん。なんか引っ掛かってて……んで、思い出したワケ』
ロキシーの片眉がピクリと動く。
闇色の瞳は琥珀色の魔石に真っ直ぐ向けられ、次の言葉を待っている。
『……センセイ、目ぇ怖いんだけど……』
「気にするな、続きを」
『気になるっつーの。そんな目で見られたら俺ドキドキしてうまく話せないわ』
ドキドキというか、心臓に悪い。
まぁ相手がシリウスだから軽く流しているが、これがファングやガナシュ、その他巷のロキシー怪談に怯える者達ならドキドキなんて生易しいものではないだろう。
『あのな、キズナちゃんの方は気配が微弱でわからなかったんだけど、シゲン君……あの子の気配に覚えがあんのよ』
「覚え?」
ロキシーの鸚鵡返しにうん、と頷くシリウス。
相変わらずその姿はロキシーには見えないが、おおよその見当はついた。
『ま、正確には気配が混ざってるんだけど……たぶん俺、その気配知ってる』
「彼が持っているという魔石か」
『そ。キズナちゃんの方がなんでわからないのかわからないんだけどねぇ……俺結構顔広いし』
ふむ、とロキシーは口許に手を置いた。
「幻想界も広いんだろう?」
『ただ単に俺の知らない魔獣がいたって事かなぁ?』
「別に不思議でもあるまい」
シリウスはしばらく唸っている。
ちなみにこういう時彼は狼耳をぺたんと寝かせ、尻尾をくるんと巻く。
『もし、魔石が今でも軍に利用されてるとしたら……悲しいな』
なんて、ぽつりと呟いて。
「…………確かめてみるか」
妙に落ち着いた静かな声がシリウスの思考を中断した。
ニヤリと笑みを浮かべ、片眼鏡が怪しく煌めくそれは正しく怪談に語られる"白衣の悪魔"そのもので……
『や、やり過ぎないでね?』
とか言いながらシリウスは何も知らない若者に合掌するのだった。
天狼は思い立ったように声を発した。
それに反応するのは、白衣の相棒。
「どうかしたのかね?」
『ん、いや、ちょっと思い出したんだよね』
実体化していない魔獣は姿が見えていればきっと狼の耳をぴこぴこと動かしてこちらを見ているのだろう。
そう思いながらロキシーは続きを促した。
『んーと、こないだ会った軍人さん……キズナちゃんにシゲン君だっけ?』
「以前気になると言っていたか」
『うん。なんか引っ掛かってて……んで、思い出したワケ』
ロキシーの片眉がピクリと動く。
闇色の瞳は琥珀色の魔石に真っ直ぐ向けられ、次の言葉を待っている。
『……センセイ、目ぇ怖いんだけど……』
「気にするな、続きを」
『気になるっつーの。そんな目で見られたら俺ドキドキしてうまく話せないわ』
ドキドキというか、心臓に悪い。
まぁ相手がシリウスだから軽く流しているが、これがファングやガナシュ、その他巷のロキシー怪談に怯える者達ならドキドキなんて生易しいものではないだろう。
『あのな、キズナちゃんの方は気配が微弱でわからなかったんだけど、シゲン君……あの子の気配に覚えがあんのよ』
「覚え?」
ロキシーの鸚鵡返しにうん、と頷くシリウス。
相変わらずその姿はロキシーには見えないが、おおよその見当はついた。
『ま、正確には気配が混ざってるんだけど……たぶん俺、その気配知ってる』
「彼が持っているという魔石か」
『そ。キズナちゃんの方がなんでわからないのかわからないんだけどねぇ……俺結構顔広いし』
ふむ、とロキシーは口許に手を置いた。
「幻想界も広いんだろう?」
『ただ単に俺の知らない魔獣がいたって事かなぁ?』
「別に不思議でもあるまい」
シリウスはしばらく唸っている。
ちなみにこういう時彼は狼耳をぺたんと寝かせ、尻尾をくるんと巻く。
『もし、魔石が今でも軍に利用されてるとしたら……悲しいな』
なんて、ぽつりと呟いて。
「…………確かめてみるか」
妙に落ち着いた静かな声がシリウスの思考を中断した。
ニヤリと笑みを浮かべ、片眼鏡が怪しく煌めくそれは正しく怪談に語られる"白衣の悪魔"そのもので……
『や、やり過ぎないでね?』
とか言いながらシリウスは何も知らない若者に合掌するのだった。