~過去語り~

――――『あれ』から、どのくらいの時が経っただろう。

 気が付いたら、薄暗い部屋に独りぼっちで。

 自由の利かない身体……もはや"身体"と呼べるのかも危ういこの身では、ここから出る事も出来なくて。

 それからまた、自分はゆっくりと時間の感覚を無くすのだった。――――


『俺……なんでここにいるんだろう?』

 どこへともない呟きに、返事はない。

 石造りの壁に囲まれた空間。
 この小部屋の中、長い間"彼"は独りだった。

『あーもう、ヒマっ!……天国にしろ地獄にしろ、話し相手くらいいるっしょー!?』

 そう言ってじたばたと暴れ……たくても手足はない。というより肉体そのものがない。
 肉体の死は、とっくに迎えていたのだ。

 そんな彼の今の姿は、琥珀色に輝く小さな石。
 自分で動く事も出来ないから、この部屋から出られない。

『……誰か、来てよぉ』

 そして、隠し部屋らしいここには長い間誰も来ない。
 この状況は、交流好きで淋しがり屋の彼にはあまりにも辛かった。

 彼なら地獄ですら、話し相手がいる分マシだと思えてしまうだろう。
 それどころか生来の明るさと人懐っこさで、地獄の番犬とだって仲良くなれそうだ。

『もう嫌! オッサン淋しくて泣ーいーちゃーうー!!』

 力一杯わめいても、やはり返事はないのであった。
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