~縁~

――最初お前を見た時は、思わず呼び掛けそうになった。

 だって、そうだろう?

 お前もあの施設で俺と同じ運命を辿り、二度と逢えないと思っていたから。

 だから生きているとわかった時は、本当に嬉しかった。

 けれども今、こんな姿で再会してどうなる?

 少なくとも今は、語れない。
 ただお前の事を見守っていられる、それだけで充分だと思った。

――


 薄明かりが仄かに照らすだけの、暗い穴の中。
 古い遺跡のいわゆる古典的な、落とし穴。
 罠というからには落ちた者が簡単には上がって来られないような、深い深い造りになっていて。

(……まぁ直であの世行きな仕掛けじゃなくて良かったが……)

 氷狼がチラリと上を見れば、天井の穴は元通り閉ざされていた。

 意外に広い中をどこか行けば上に戻れるだろうか、と思わなくもなかったが。

「……下手に動くと、合流出来ないかもな」
「こういう時はその場を動かず、救助を待つのが一番だからな」

 突然の声に思わず振り向けば、壁を背にして座り込む白衣の男。
 薄明かりは彼の魔術がもたらした光だった。

「ぎゃあ!? ロキシーっ!」

 一瞬固まった氷狼が、思わず飛び退く。

「……なんで皆決まって幽霊にでも会ったようなリアクションをとるのかね」

 心外だ、とばかりに学者は深い溜め息をついた。
1/4ページ
スキ