~紫煙香る記憶~

「しかし……貴様も変わったよな」

 ソファに反対向きに座り、背もたれに上体を預けきって火蜥蜴は呟いた。

「……俺が? 変わった?」
「ああ。今の貴様は人間の生活に溶け込んでいる。昔の貴様からは想像つかん」
(あれだけ嫌っていた人間の家で寛ぐお前も想像つかなかったけどな……)

 その言葉をそっくりそのまま返したくなった氷狼だったが、それは敢えて黙っておく事にした。

 そんな氷狼の心の内などお構いなしに、火蜥蜴は話を続ける。

「……それに、だ。そのタバコとかいう人間の嗜好品。何故そんなモノを?」

 まだ完全に人間を許していない魔獣は、同胞が咥えているそれを渋面で指さした。

 言われて氷狼は、紫煙を燻らせながら暫し考え込む。

「…………そういえばそうだったな。いつからだっけ?」

 揺れ動く煙を目で追い、ぼんやりと思考を巡らせる。

「なんでかやめられないんだよなぁ……」
「……俺はどうにも好かんがな、こんなモノは……」

 苦々しい火蜥蜴の言葉は、煙草の香りと混ざり合って消えた。
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