~魔石を持つ者~

 穏やかな陽気のクレイン宅にて。

「……むぅ」
「どしたのガナ君、難しいカオしちゃって?」

 いつも険しい表情の火蜥蜴が、今日は眉間の皺を三割増しで何やら考え込んでいる。
 好奇心旺盛な天才魔法技師が声をかければ、火蜥蜴は振り向いた。

「……この間来た軍人二人……あれは人間だよな?」

 その二人というのはファング達と会う前、封印から目覚めたばかりのガナシュが食糧を求めて通りすがりに襲ってしまった軍の小隊の隊長と副隊長を指している。

 そんな二人が因縁のガナシュと再会してゴタゴタありつつどうにか和解したのはつい最近の話だ。

「一応、ガナ君達みたいな魔獣がそうあちこちにいない事を考えればね」
「魔獣ではない。それはわかっている。だが……」

 どうにもスッキリしないようでますます眉間の皺を深くする火蜥蜴に、氷狼が視線を向けた。

「ガナシュも気になっていたのか……パッと見彼等は普通の人間のようだったが、微かに何か違和感を感じた」
「フェンリルもか……奴等、ただの軍人というだけではない……のか?」
「んもぅ、ガナ君のくせにハッキリしないな~」

 歯切れの悪い言葉にクレインが唇を尖らせる。

「お、俺のくせにとはなんだ!?……あんな気配は初めてなんだ。知らないような、それでいて懐かしいような……」

 言いながらガナシュはクレインに目線を移し、言葉を止める。

「な、何?……僕のカオに何かついてる?」
「……いや、今更だが貴様らが一体何をやっているのかと気になってな……」

 ガナシュの見方が間違っていなければ、目の前で繰り広げられている光景は……

「何って……肩揉みしてるんだが」
「目ぇ酷使しちゃって肩凝るんだよね~」

 ファングがクレインの肩を揉んでいる。
 ついでに、丁寧にマッサージまで。

「魔獣ともあろう者が……情けない光景だな」
「ん?……ま、たまにはいいだろ」

 呑気に応える弟になんだか面白くない兄だったが、ふいにニヤリと笑い、

「……そうか。ならクレイン、終わったら今度は貴様がフェンリルにしてやれ。コイツは背中が弱いから、そこを特に重点的に……な?」
「ファング、背中弱いの?」

 ガナシュの意図を汲み取ったクレインがたちまち玩具を見つけた子供のように瞳を輝かせた。

「え?……おい、二人共……」
「ふふふ★ 僕の『黄金の指先』と言われたテクニック……身をもって教えてあげるよ、ファング♪」

 気付けば素早く回り込んだガナシュに捕まり、正面からは楽しそうに指を動かしながらゆっくりと迫るクレインが。

「なっ……なんでこうなるんだよー!?」

 今日のクレイン宅は、いたって平和なようだった。
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