~夢の中で~

 街で聞いた、あの名前。

―ニーベルン博士!―

 その時初めて知った、相棒のファミリーネーム。

 けれども……

(……知って、いた?……どこかで、聞いた……)

 その名前を、一体どこで?

 そんな事を考えているうちに、引きずり込まれるように氷狼の意識は闇へと沈んでいった……


――遠い昔。

 人間達の住む世界とは別に、もうひとつの世界があった。

 壁をひとつ隔てた向こうの、その名は『幻想界』。
 ……まぁ、そんな呼び名が付くのはだいぶ後になってからなのだが……


 人とは異なる存在……魔獣や幻獣、神獣などが住む大地。

 そこには、争いを繰り返す人間界とは無縁の平穏な暮らしがあった。

 ……ある事件が起こるまでは――


 普段は世界の境目など見えず、別々に隔離されたそれぞれの世界。

 だが、ある時それを越えてしまった人間が、魔獣の存在を知った。

 強大な力を持つ彼等に抱いた興味は、いつしか醜い欲望となり争いの種を生んで。

 傲慢な者が、魔獣を欲して彼等の世界に侵略したのだ。

 ある者は殺され、ある者は囚われて。平和に暮らしていた彼等の集落は見るも無残に焼き尽くされた。

 捕まった魔獣達は、軍の研究所に送られ、非人道的な実験の犠牲者となって……


 氷狼『フェンリル』……ファングも、その中の一人だった。
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