EX~温泉へ行こう~

 最近、相棒の元気がない。

 自分の過去や記憶など、いろいろと思う所が多いのだろう。


 けれども、たまには立ち止まって肩の力を抜いて欲しい。

「と、いう訳で!」

 ビシィッと勢いこんで、クレインは相棒に向き直った。

「温泉行こうよ、ファング♪」
「……クレイン……話が唐突過ぎて見えないんだが」

 それもそのハズ、クレインは前置きを冒頭の「と、いう訳で」しか言っていない。
 そこから温泉に行こうなどと繋げられても、ファングとしては首を捻るばかりだ。

「ああゴメン、たまにはゆっくりと息抜きしようかなって」
「そういう事か」

 それなら、とファングは表情を緩める。

 落ち着く雰囲気の旅館でゆったりと寛ぐ……
 嫌いではない。むしろ好きだった。

「ほぅ……それでいつ行くんだ?」
「オレも行きたい!」
「ガナシュ、ルーツ……」

 いつの間にいたのか、火蜥蜴と子犬が話に割り込んできた。

「旅館と言えば枕投げだよな♪」
「それはちょっと楽しそうかも……って子犬君、ついて来る気?」

 ジロリと紫の瞳が牽制するが、子犬も負けじと食い下がる。

「なんだよ、いつかの食事の時はアンタも無理矢理ついて来たろ?……しかも勝手に飲み会に変更するし」
「うぐ……」
「抜け駆けするつもりか? 貴様達だけ楽しませはせんぞ」

 火蜥蜴の援護射撃にさすがの天才もたじろぐ。

「け、けど……」

 ファングを休ませてあげたいのに、この二人を連れて行けば逆に疲労が溜まってしまうのではないか。

「クレイン、いいだろう?」
「ファング……」

 アイスブルーの瞳は水面のように穏やかに、クレインを諭す。

「みんなで行った方が楽しいだろうし、ここで連れて行かないのも可哀相だ」
「……キミがそう言うなら」

 不満は数あれど、渋々とクレインは首を縦に振った。

「やったぁ! 枕投げ~♪」
「ククッ、俺に勝てると思うのか?」
「ってやる気なのか、ガナ……」

 そんな発言に早くも不安が過ぎる、二人であった。
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