~君の名は~
霞掛かった意識の中。
『……グ』
―誰……だ?―
遠くからこちらに語りかけて来る、知らない声。
―いや、違う。―
知っている。自分は、この声を。
懐かしくも穏やかな声。
それなのに、思い出せない。
……一体、何故。
―誰なんだ、お前は……―
『ファング』
目覚めを促すようにはっきりと名前を呼ばれて、夢はいつもここで終わる。
そして、目覚めた時には……
「ファングっ!」
「……クレイン?」
ぼんやりと瞼を開ければ、明朗な紫と視線がぶつかる。
朝から元気なことだ、とファングは思った。
自慢じゃないが彼は朝がやたらと弱い。
放っておけばいくらでも眠っていたりするので、この相棒や最近では新たに増えた同居人……ガナシュが起こしに来る。
「おいフェンリル、貴様いつまで寝て……あ」
相手がまだ寝ていると思っていたガナシュはひょっこりと顔を出すなり虚を突かれた風に声を洩らす。
「なんだその顔……今日はもう起きてるぞ?」
「威張るな馬鹿者。それでも遅いくらいだ」
しかも、やっぱり自力では起きていない。
呆れて目を細める兄の手には、包丁が握られていた。
狂暴な彼に刃物という組み合わせは、嫌でも目についた。
「ガナ、それ……」
「ああ、貴様があまりにも遅いんでな。今日の朝飯は俺が作った」
冷めるから早く来いと急かされ、寝間着のままに食卓へと向かう。
「……これは……」
ガナシュの料理の腕は悪くはなかった。
むしろ、なかなかのものなのだが……
……いかんせん、全体的に赤い。
視覚的にも嗅覚的にも辛さを訴えてくる料理の数々の中心にそびえるは、豪快な肉の……これまたスパイシーな味付けの丸焼きであった。
「これは、お前の得意料理だったか……」
ツーンと目に来る凄まじさに涙が出てきた。
「朝ご飯にはちょっとヘビーだよねぇ」
「貴様の料理よりマシ……いや、そもそも貴様のは料理とも呼べん代物だったな」
皮肉る火蜥蜴にムッと口を尖らせる天才。
そんな光景を見ながら料理の効果かようやっとハッキリし始めた頭で氷狼は思い出す。
「……そうか、今日は」
街に出掛ける日か。
ぽつりと零した呟きに、今更かといった二人の視線が返ってきた。
『……グ』
―誰……だ?―
遠くからこちらに語りかけて来る、知らない声。
―いや、違う。―
知っている。自分は、この声を。
懐かしくも穏やかな声。
それなのに、思い出せない。
……一体、何故。
―誰なんだ、お前は……―
『ファング』
目覚めを促すようにはっきりと名前を呼ばれて、夢はいつもここで終わる。
そして、目覚めた時には……
「ファングっ!」
「……クレイン?」
ぼんやりと瞼を開ければ、明朗な紫と視線がぶつかる。
朝から元気なことだ、とファングは思った。
自慢じゃないが彼は朝がやたらと弱い。
放っておけばいくらでも眠っていたりするので、この相棒や最近では新たに増えた同居人……ガナシュが起こしに来る。
「おいフェンリル、貴様いつまで寝て……あ」
相手がまだ寝ていると思っていたガナシュはひょっこりと顔を出すなり虚を突かれた風に声を洩らす。
「なんだその顔……今日はもう起きてるぞ?」
「威張るな馬鹿者。それでも遅いくらいだ」
しかも、やっぱり自力では起きていない。
呆れて目を細める兄の手には、包丁が握られていた。
狂暴な彼に刃物という組み合わせは、嫌でも目についた。
「ガナ、それ……」
「ああ、貴様があまりにも遅いんでな。今日の朝飯は俺が作った」
冷めるから早く来いと急かされ、寝間着のままに食卓へと向かう。
「……これは……」
ガナシュの料理の腕は悪くはなかった。
むしろ、なかなかのものなのだが……
……いかんせん、全体的に赤い。
視覚的にも嗅覚的にも辛さを訴えてくる料理の数々の中心にそびえるは、豪快な肉の……これまたスパイシーな味付けの丸焼きであった。
「これは、お前の得意料理だったか……」
ツーンと目に来る凄まじさに涙が出てきた。
「朝ご飯にはちょっとヘビーだよねぇ」
「貴様の料理よりマシ……いや、そもそも貴様のは料理とも呼べん代物だったな」
皮肉る火蜥蜴にムッと口を尖らせる天才。
そんな光景を見ながら料理の効果かようやっとハッキリし始めた頭で氷狼は思い出す。
「……そうか、今日は」
街に出掛ける日か。
ぽつりと零した呟きに、今更かといった二人の視線が返ってきた。