~人ならざる者達~

 それは、珍しく普通に訪ねて来た白衣の客人の一言から始まった。

「突然なんだが……頼みがある」

 ソファに腰掛けて、クレインに向かって静かに切り出す。

 街を歩いていたらいつの間にか背後について来ていたとか、ごく自然に家に上がり込んでいたとか、そんな神出鬼没な魔法学者ロキシーが正面からクレインの家にやって来て、頼み事。

―何事だッ!?―

 ファングとガナシュは思わずまじまじと見入ってしまう。

「頼み?……もしかして探索に行くの?」
「察しが良いな」
「キミが頼み事するのって、そういう関連の話だよね。でもって、人手が欲しいとか?」

 そこまで言うと、彼にしては珍しく驚いたような反応が返ってきた。

「フ……敵わないな、その通りだ」
「伊達に付き合い長くないよ☆」

 得意気にピースをする28歳。
 ひょんなことから二人の仲の良さが窺い知れて、魔獣達は意外そうな様子だったが、ふと話の内容に一抹の不安をおぼえた。

「……待て。人手って……」

 深く突っ込んではいけないと感じながら、ガナシュが口を開いたその時。

「うぅ、急に眩暈が……」

 行動を起こしたのはファングの方が早かった。
 わざとらしく壁にもたれかかると、いかにも具合が悪そうに訴える。

「……という訳でガナ、すまないがロキシーとはお前が行って来てくれ」
「フェンリル貴様ァァ! 裏切るのか!?」

 ガナシュは怒りに任せて裏切り者の胸倉を掴み、ガクガクと揺する。
 そんなやりとりを眺めていたロキシーが、心なしか傷ついたような表情で、

「やれやれ……蛇蝎の如く嫌われてしまったようだな。流石の私もショックを隠せない」

 なんて宣っている。

 人並み外れた太く強靱な神経の持ち主が何を、といちいちツッ込むのも疲れた。

「わかった……実際フェンリルは最近疲れ気味だからな。おい学者、光栄に思え!」
「……いいのか、ガナ?」

 思ったよりあっさり事が決まり、逆にファングが拍子抜けする。
 散々ゴネられた挙句、結局自分が行かされる羽目になるだろうと半ば諦めていたからだ。

「その代わり……」
「?」

 瞬間、緋色の瞳が狂暴な光を宿す。

「……仮病まで使って兄を売ったんだ。帰ったら覚えていろよ?」

 ニヤリと笑う貌は、魔獣サラマンダーの威圧を背負っていた。

「……肝に命じておくよ。夕飯には期待しててくれ」

 苦笑しながら二人を見送ると、悪戯な紫の瞳が氷狼を見上げる。

「……ふふ、珍しいね。キミが仮病なんて。悪い子だなぁ★」
「俺だってたまには悪い子にもなるさ」

 からかうように言うと、おどけた調子が返ってくる。

「……まったくもぅ」

 初めの頃の警戒に満ちた態度とはまるで違うそれに、クレインは穏やかに破顔した。
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