~雨の邂逅~

 鬱蒼とした森の奥。
 醜く歪んだ異形の獣が一人の男を取り囲んでいる。

「悪趣味な化け物が……こんな所にまでいるとはな」

 ぐるりと辺りを見回すと、悪態混じりに男は愛用の武器……一振りの太刀に手をかけた。

 暗い灰色の髪が風に靡き、澄んだアイスブルーの瞳が一層強い輝きを宿す。

――――刹那。

『ガァァッ!!』
「……甘い」

 均衡を破り襲いかかって来た獣を太刀が一閃する。
 喉笛を切り裂かれた獣は濁った血を撒き散らし絶命した。
 それを皮切りに次々と飛び掛かって来る化け物達を一匹、また一匹と男は斬り伏せていく。

「これで最後だ!」

――ザンッ!!――

 鮮血の雨が降り注ぎ、全ての異形を片付けた事を確認すると、男は太刀をしまい……

『あー、ファングっ!!』
「!?」

 パタパタと音をたて、羽を生やした小さな物体が飛来する。
 目のような部分をキョロキョロさせ、男の手元を見ると、

『タバコ、ダメだって言ったじゃないか』

 今まさに火をつけようと取り出された煙草を睨みつけた。

……いや、実際には表情などないのだが。

 ファング、と呼ばれた男はやれやれと息をつくと、

「そんなモノまで使って監視か……今までどこにいた?」
『隠れてたんだよ。この魔導サポートアイテム“シエン君”は高価なんだ、壊したら大変だよ』

 支援するからシエン君。
 センスを疑うような名前だが、当のシエン君は誇らしげに翼を腕に見立て、威張るようなポーズを取る。

「全く……ん?」

 頬に冷たいものが当たる感覚に、ファングは空を見上げた。

「……雨、か」
『思い出すね、あの日の事を』
「さてな。帰るぞ、クレイン」

 降り始めた雨は、早くもその量を増してきていた。
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