7. 昼休みの逃避行(始春)
お昼のチャイムと共に校内は一気に騒がしくなる。一時ではあるが授業から解放されて気が大きくなっているのだろう。その喧騒から逃れるように昼飯の入った袋を持って教室を出る。
昼休みはどこに行っても人が多い。教室も食堂も屋上もそれぞれに人がいて、静かに昼食を取れるような場所では無い。定番の場所を避けて、向かう場所はただ一つ。
目指していた場所、第二理科室の扉を引くと、やはり誰もいなかった。
「はぁ」
ようやく誰からの視線も無い場所に来ることが出来た。固い椅子にひんやりとした空気に包まれた第二理科室はあまり昼食を取る場所に向いていない気はするが、人気が無いというメリットがこれらのデメリットを補って余るぐらいの魅力になっている。
いつもの席に座り、袋から昼飯を取り出す。が、まだ手は付けずに時計の針が進むのを見つめる。
ガラッと扉の開く音がして、そちらに視線を向ける。入ってきた奴の姿を見てほんの少し口角を上げた。
「わ、やっぱり先に来てたんだね」
「遅いぞ、春」
「ごめん。ちょっと先生に捕まってて」
「さすがだな、副会長様?」
「もう、最近始その呼び方よくするよね」
拗ねたように言葉を吐いた春は俺の隣に座る。王様と呼んでくることに対しての仕返しのつもりで最近よく言っているのだが、少しでも俺の気持ちが分かったならそれでいい。
静かな教室でいただきますと手を合わせて、たいした会話もせずに黙々と昼飯を食べ進める。
きっと、俺らがここで二人きりで昼食を取っていることは他の誰も知らないだろう。第二理科室は少し入り組んだ所にあって、教室の前の廊下ですら人が通らない。この時間はたった二人きりの時間。
一足先に食べ終わり手を合わせた俺は、春の方へ顔を向けた。何気なく見ていただけだが、不意に春の箸が止まる。
「……始に見られてると緊張する」
「そんな必要無いだろ」
「だって、綺麗に食べなきゃいけない気がするんだよ」
「好きなように食べればいい」
俺の言葉に渋々ながら頷き、食事を再開する。そうは言うが、春の食べ方はとても綺麗だ。米粒一つだって残さないし、しっかりと噛んで飲み込む、まさに理想的な食べ方だろう。
それに春はいつも母親が作ってくれるという弁当を大切に、美味しそうに食べている。俺はその姿を見るのが結構好きなのだ。だから食べている姿をひたすらに見つめている。最後の一口まで、見逃さないように。
「ごちそうさまでした」
きちんと手を合わせて挨拶した春はすぐに弁当箱をランチバッグの中へ仕舞う。
昼休みが終わるまではあと二十分。移動時間を無くせば残された時間はあと十分前後しかない。
もう少しこの静かな秘密の時間を堪能しようと春の首元へ顔を寄せた。
昼休みはどこに行っても人が多い。教室も食堂も屋上もそれぞれに人がいて、静かに昼食を取れるような場所では無い。定番の場所を避けて、向かう場所はただ一つ。
目指していた場所、第二理科室の扉を引くと、やはり誰もいなかった。
「はぁ」
ようやく誰からの視線も無い場所に来ることが出来た。固い椅子にひんやりとした空気に包まれた第二理科室はあまり昼食を取る場所に向いていない気はするが、人気が無いというメリットがこれらのデメリットを補って余るぐらいの魅力になっている。
いつもの席に座り、袋から昼飯を取り出す。が、まだ手は付けずに時計の針が進むのを見つめる。
ガラッと扉の開く音がして、そちらに視線を向ける。入ってきた奴の姿を見てほんの少し口角を上げた。
「わ、やっぱり先に来てたんだね」
「遅いぞ、春」
「ごめん。ちょっと先生に捕まってて」
「さすがだな、副会長様?」
「もう、最近始その呼び方よくするよね」
拗ねたように言葉を吐いた春は俺の隣に座る。王様と呼んでくることに対しての仕返しのつもりで最近よく言っているのだが、少しでも俺の気持ちが分かったならそれでいい。
静かな教室でいただきますと手を合わせて、たいした会話もせずに黙々と昼飯を食べ進める。
きっと、俺らがここで二人きりで昼食を取っていることは他の誰も知らないだろう。第二理科室は少し入り組んだ所にあって、教室の前の廊下ですら人が通らない。この時間はたった二人きりの時間。
一足先に食べ終わり手を合わせた俺は、春の方へ顔を向けた。何気なく見ていただけだが、不意に春の箸が止まる。
「……始に見られてると緊張する」
「そんな必要無いだろ」
「だって、綺麗に食べなきゃいけない気がするんだよ」
「好きなように食べればいい」
俺の言葉に渋々ながら頷き、食事を再開する。そうは言うが、春の食べ方はとても綺麗だ。米粒一つだって残さないし、しっかりと噛んで飲み込む、まさに理想的な食べ方だろう。
それに春はいつも母親が作ってくれるという弁当を大切に、美味しそうに食べている。俺はその姿を見るのが結構好きなのだ。だから食べている姿をひたすらに見つめている。最後の一口まで、見逃さないように。
「ごちそうさまでした」
きちんと手を合わせて挨拶した春はすぐに弁当箱をランチバッグの中へ仕舞う。
昼休みが終わるまではあと二十分。移動時間を無くせば残された時間はあと十分前後しかない。
もう少しこの静かな秘密の時間を堪能しようと春の首元へ顔を寄せた。