教会の鐘が聞こえる

「……は? マジで?」
「うん。だってこれ……」
「だ、大丈夫かな……」
「大丈夫だよ。だって隼だもん」

 プロセラ共有ルームではちょっとした騒ぎが起きているらしい。風呂と書かれたグループトークでは下の子たちが僕の行方について沢山の文字を並べている。
 騒ぎにならないように書置きを残してきたのにと思いつつ、トーク画面を閉じた。
 「着きましたよ」と運転手さんの声にお金を払って礼を告げる。時間は予定通りで、あともうすぐ。
 沢山の人波の中、彼を見つけるのは容易い。

「海」

 手を振る僕に、マスク姿の海は目を丸くして僕の元へ駆け寄ってきた。

「隼、は、え? ていうか、お前変装もしないでこんなとこ」
「だぁいじょうぶ。おまじない、かけてあるから」

 僕のおまじないの効果を身をもって知っている海は、あぁと納得したようでそれ以上変装をしていない僕を咎めることは無かった。
 先手を打つべく、左ポケットに入れた箱を取り出す。深い青の、三日前にも見せた小さな箱。

「それで、海。もう一度言うね。……僕と結婚してくれませんか」

 空港の真ん中、行きかう人々は誰も僕たちの事を気に留めない。きっと普通なら大騒ぎになるだろう状況でも、おまじないの効果は絶大だ。
 海はゆっくりと瞬きをして、僕の手の中にある箱から指輪を取り出した。

「不束者ですが、よろしくお願いします」

 指輪は海自身によって左手の薬指に収まった。ようやく居場所を与えられた指輪は誇らしげに煌めいている。

「……もう、これで海の未来は僕のものだね」
「ああ。その代わり、隼の未来も俺のものになったけどな」
「うん。一緒の未来だ」

 僕の左手の薬指にも同じ指輪がはまっている。二人で左手同士を絡ませて笑うと、どこからか教会の鐘が聞こえた。
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